.*宝小様から☆ヤス生誕記念&SELFCONTROL完結記念*. 10月3日はSpecialDay 【5】 「というわけで、僕が無理にアキラさんを誘っったんだ。まさかみんながあの時のことまだ気にしてたなんて思ってもみなかったから……ごめんね」 ちらりと視線を投げ掛ける。ヤスくんは何か言いたいんだけども何も言葉が出てこなくて参ったみたいな顔して突っ立っていた。 ヤスくん、怒ったかな? 「俺は気にしてないよ。豹雅くんは、俺のため、そしてヤスくんのために頑張ってくれたんだから」 アキラさんは優しく微笑んで、えらいえらいと僕の頭を撫でてくれた。なのに僕はちっとも嬉しくなくて、何だか背筋がゾクッと寒くなったような気がした。 「あのさあ、豹雅くん」 腕を組み、ながーいため息を吐いた慎一くんが口を開いたのと同時に、 「慎一、聞いた通りだよ。豹雅くんが俺とヤスくんの仲を案じた結果こうなったんだ。豹雅くんはいいことをしたんだから、責めるのは間違っている」 とアキラさんが口を挟んできた。 「豹雅くんを責めようなんて思ってませんよ。ただ、どうしてそう簡単にアキラさんの口車に乗っちゃうかなあと呆れてるだけで」 「口車?」 慎一くんてば、なに言ってるんだろう。 「口車なんかじゃないよ、アキラさんは真剣にヤスくんとの関係について悩んでいたんだ」 「アキラさんの神経が蜘蛛の糸なみに細いならわからなくもないけどさ、アキラさんの図太さっていったら綱引きのロープ10本まとめたって足りないくらいなんだよ?」 「しんしん、その例えよくわかんない」 とうとう慎一くんの食べかけのケーキにまで手を出したいっちゃんが、素直な感想をのべた……僕はいっちゃんのネーミングセンスの方がよくわからないんだけどな。 「アキラさん、豹雅くんもヤスくんに負けず劣らず、純粋で真面目な子なんですから、からかって遊ぶのはやめてください」 「失礼な。俺は豹雅くんで遊んだことは一度もないよ。俺がヤスくんとの関係に悩んでいたのは本当のことなんだから。まあ多少シリアスを演出してみたりはしたけど?」 アキラさんは楽しそうに笑っている。 慎一くんは頭が痛いのかこめかみに手をやり、俯いた。 ヤスくんは苦笑い。広夢くんは慎一くんとアキラさんの間に挟まれ、落ち着きなく2人の顔を見比べている。 「時に豹雅くん、こちらは君のお友達かな?」 アキラさんはいっちゃんに目をやる。 気づいた僕が口を開くより早く、いっちゃんがアキラさんに向かって手を差し出した。 「弟の伊吹です。いつも豹くんがお世話になってます」 「ああ、これはどうも。橘 彰です」 いっちゃんの手を握り返すアキラさん。お互いに無言で視線を交わしあい、すぐに手を離した。 「んで、やっすーはどうすんの?」 いっちゃんに突然話を振られ、ヤスくんは「え? 俺?」と慌てふためく。 「この兄さん、アキラさんは、やっすーの誕生日を祝いに来たわけじゃん? 前に何があったかは知らんけど、わざわざ会いに来てくれたんだから、何か言うことないの?」 瞬き二回。ヤスくんは「え? あ、うん」とわかってるんだか、わかってないんだかはっきりしない返事をして、アキラさんを見やった。 にっこり笑うアキラさんを見て、それから肩を縮める僕を見て、ヤスくんは苦笑混じりに、 「びっくりしたけど……誕生日を祝いに来てくださったアキラさんの気持ちは素直に嬉しいです。ありがとうございます」 「どういたしまして」 おちゃらけたように軽く頭を下げるアキラさん。 「それに……俺とアキラさんの仲を心配して、気を回してくれた豹雅の気持ちも嬉しいよ」 「本当に?」 僕は恐る恐る訊ねる。ヤスくんは優しいから、僕やアキラさんに気を遣ってるんじゃないかと思った。 「本当だよ」 「迷惑とか思ってない?」 「思うわけないじゃないか」 ヤスくんが笑ってる。穏やかな笑み。その笑顔に不穏なものは感じなかった。嘘はない。 「それなら、いいんだ」 僕はようやく胸を撫で下ろすことができた。 「さて、花束も渡したし、俺はそろそろ帰るよ」 「え、もう!?」 本当に今来たばかりなのに。 「ヤスくんの顔が見れたからいいんだよ。あとは若い子たちだけで楽しんで」 「でも、ヤスくんのバイトが終わったらご飯食べにいこうって話もしてて」 僕もアキラさんに会うのは久しぶりだし、弟のいっちゃんのこともちゃんと紹介したいから、来てほしかったのにな。 「いいよいいよ。話に入れなくて広夢が困ってるし、これ以上長居すると慎一に何を言われるかわかったもんじゃないからね」 「人のせいにしないでください」 慎一くんが憮然として言う。 「それは失礼。じゃあね、豹雅くん。ヤスくんもまたね」 去り際、アキラさんは「誕生日プレゼント」と言ってヤスくんに白い封筒を渡した。 何処にでもある白い封筒。何が入っているのかはわからないけど、アキラさんがそれはそれはいい笑顔で、「びっくりすると思うよ。後で見てね」と楽しそうに言っていたから、きっといいものなんだろうな。 back/NEXT top |