.*宝小様から☆ヤス生誕記念&SELFCONTROL完結記念*.
10月3日はSpecialDay 【2】


「そういえば、」

 モンブランにフォークを突き刺して、慎一くんが思い出したように言った。

「ヤスくんはあれから何か言ってた?」

 口の中のミルフィーユを飲み込んでから、

「何かって?」

 と訊ね返す。

「アキラさんのこと」

「アキラさんっ?」

 予想だにしていなかった名前に思いがけず声が上ずってしまった。幸い、慎一くんには気取られなかったみたい。

「あのアキラさんが簡単にヤスくんのことを諦めるとは思えなくて。また迷惑なことしてるんだったらと思ったんだけど」

「いやっ、ヤスくんは何も言ってなかったよ。なんか最近楽しそうだしっ」

 心臓がばくばく言って、フォークを握る手が震える。

「ならいいんだけど……楽しいことって、何かあったの?」

 慎一くんが話題を変えてくれた。僕はほっと息をつき、フォークを握り直してから、「あのね、」と声を落として言った。

「長年の片想いが実ったみたいなんだよ」

「えぇっヤスくんみたいなイケメンでも片想いとかすんの!?」

「広夢、うるさい」

 慎一くんが後ろを振り返る。ヤスくんはカウンター席に座る品の良いお婆さんと和やかな雰囲気でお話をしていた。

「相手はどんな子なのさ?」

 広夢くんがニヤニヤ笑いながら僕に詰め寄る。

「高校の同級生だよ。彼女とは中学から長いこと、お友達関係にあったみたいなんだけど、共通の友人のお膳立てで、めでたくお付き合いすることになったと」

「へー」

「いいなあ〜、彼女」

 広夢くんは羨ましそうに働くヤスくんを見る。

「ヤスくんの彼女じゃ、きっと可愛いんだろうね」

「それはもう」

「いいな、いいな。可愛い彼女。俺も彼女欲しい〜」

 嘆きながらもさっきから視線を右に左に前に後ろに広夢くんは、ぬかりなくアルバイトの女の子、そしてお店に来ているお客さんのチェックをしている。

「広夢くんも女の子受けしそうな顔立ちしてるのに何でモテないんだろうね?」

 僕の素朴な疑問に、慎一くんといっちゃんが同時に、

「「性格に問題ありなんじゃない?」」

 と見も蓋もないことを言った。

 慎一くんはともかく、広夢くんと初対面のいっちゃんがそんなことを言うのは失礼にも程があると思うんだけど……でも、広夢くん女の子ウォッチングで聞こえてないみたいだから、いいか。

「あ、でも、僕が言ったことは内緒にしてね。たぶんそのうち、ヤスくん自分で言うと思うから」

 頷く慎一くん。広夢くんは女の子に夢中で、いっちゃんはケーキに夢中だから全然話聞いてない。大丈夫かな?

「あ、でー、気になってたんだけど、そのアキラさんてどちらさん?」

 せっかく話題がヤスくんの彼女についてに変わったのに、空気の読めないいっちゃんがまたしても余計な発言をしてくれた。

「アキラさんは、俺と広夢の所属してる部活のOBで、色々すごいけど、だいぶ変な人」

「へぇー、すごい変な人なんだ」

 いっちゃんは感心したように頷く。でもそれ、ちょっとちがくない?

「いや、変な人というか……変態お兄さんかな」

「ふーん。変態さんなんだ」

「うん。超弩級の変態さんと言っても過言ではない」

「超弩級の変態さんかー。そいつはすごいなー」

 変態て、おしゃれなカフェで、イケメン2人(もちろん慎一くんといっちゃんのこと)が大真面目な顔で話すことじゃないよね……というか、慎一くん、さらっとひどいこと言ってるけど、もしかしてアキラさんのこと嫌いなのかな?

「で、そのお兄さんとうちの豹くんはどういう経緯でメルと――」

「いっちゃんっ! ケーキ! ケーキ食べな! 僕の分もあげるからっ!」

 余計なことを言わせてなるものかと僕は慌てていっちゃんの方へケーキの皿を押しやる。

 食べ物を与えられたいっちゃんはニンマリ笑い、慎一くんに何か言いかけてたことを忘れてしまったかのように、ケーキを食べ始めた。

「豹雅くん、どうしたの?」

 慎一くんが怪訝そうに僕を見ている。

「え、なにが?」

「何か焦ってる?」

「焦ってないよ?」

「でも今、伊吹くんが何か言いかけて無理矢理遮ったよね?」

「そんなことないよ?」

 眠そうな目をした慎一くんは、その柔和な見た目に反して意外と気が強くて、意外と鋭い。じーっと僕を見つめ、何かを探っている。

「そんなにじっと見たって何も出ないよ、本当に何もないんだから――あ、ヤスくん、追加オーダーいい?」

 慎一くんの視線から逃れたくて、通りがかったヤスくんを呼び止める。

「えーとねー、」

 オレンジジュースとグレープフルーツジュース、どっちにしようかな?

 メニュー片手に迷っていたら、一通り女の子のチェックを終えたのか、広夢くんがこちらに向き直って、思い出したように言った。


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