.*二上様から☆コラボレーション*.
スイートパラダイス



真夏によくある突然の雨。今朝の天気予報でも確かに急な雨に注意と言っていたが、それは一部の地域でとも言っていた。

まさか自分がいるここがその一部に含まれていたなんてついていない。赤い髪をなびかせる一舞は、どこか雨宿りできそうなところを探してスイーツ店に目を止めた。大きくつきだしたオーニングテントは雨宿りにうってつけだ。


「あーあ、もうびしょびしょ」


家までもう少しだったのに。
テントの下で溜息をつく。突然の雨には恨めしさしか感じず、濡れて肌にまとわりつくシャツに不快感を覚えながら前髪を掻きあげた。


「(そういえば、買ったものは濡れていないかな?)」


気になった買い物袋の中。今日の夕飯に使う食材ばかりで、中を覗くと一舞が抱えて走ったおかげで何とか濡れずに済んだ様子。ホッと安堵していると、ふとすぐ横で自分と同じように雨宿りをしている人に気がついた。

栗色の髪、細いシルバーフレームのメガネをかけた男子生徒。
男子生徒の方は一舞に気づいていないのか、視線は店のポスターに釘付けだ。


「(どこの学校の生徒だろ?)」


恐らく高校生だろうが、一般的なカッターシャツとズボンの制服からはどこの学校か判断できない。自分の学校のように特徴のある制服だったら解ったのに。


「あの……」

「(あ、気づかれた)」


この距離だもん。気づかない方が不思議だよね。


「なんですか?」


それでも素知らぬ顔で尋ねると、男子生徒は自分から声をかけておきながら言いづらそうにポスターを指差した。


「甘いもの好きですか?」

「……はい?」








「お待たせしました。マンゴームースと季節限定三種の柑橘パフェ、ベリーソースのフローズンヨーグルト、桃のレアチーズです」


ウェイトレスがテーブルに並べたスイーツの数々。色鮮やかなフルーツとゼリーの輝きは女性なら誰もが魅了されるもので、一舞もその美しさとかわいらしさに内心声をあげていた。
しかし、これらスイーツの殆どは。


「うわぁ、おいしそうですね」


向かいに座る男子生徒が食べるのだ。一舞が食べるのはマンゴームースのみ。
ずらりと並んだスイーツに、歓喜の声をあげた男子生徒を見た一舞は、男の人で甘いものが好きなんて珍しいなぁなんて思ってしまう。

味覚は人それぞれなのだから、甘党の男子がいてもおかしくない。だけど身近に甘いものが嫌いな人がいると、どうしてもその違和感は拭えないのだ。


「食べないんですか?」

「あ、ううん。食べる」


一口食べたマンゴームースは甘酸っぱい南国の味。下の層にあるミルク味のムースと一緒に食べれば、更なるおいしさ。ついつい顔も緩んでしまう。


「よかった。おいしいみたいですね。この店ってよく雑誌やテレビで紹介されているから一度来てみたかったんです」


嬉しそうな一舞を見て安心した男子生徒はにこりと笑う。
言葉には出さないが、彼は一舞がこの店のスイーツを気に入らなかったらどうしようと不安だったらしい。そんな心の声が聞こえて一舞はクスリとほほ笑む。


「甘いものが好きなんだ」

「はい」


即答、それも笑顔で答えた彼に一舞はまた笑う。
最初は、初対面の女性を誘うなんて下心があるのではないかと疑っていたが、パフェやレアチーズケーキを嬉しそうに食べる彼からはそんな雰囲気を全く感じられない。

本当に、この店のスイーツを食べたかっただけなんだなぁとアイスコーヒーを飲む。横目で見た外、雨はまだ止みそうにない。


「見ず知らずの人を誘う程、この店に入りたかったんですね」


男子生徒は今も一舞とのお喋りより、パフェに夢中になっている。
ざくぎりの甘夏をスプーンに乗せて、「はい」と頷いた。


「突然すみませんでした。この辺りは滅多にこないし、季節限定スイーツのポスターを見たら、どうしても入りたくなってつい」

「食べたいけど男一人で入るには勇気のいる店。だから同じく雨宿りしていた私に声をかけた、と」

「そういうことです」


そう言って今度はレアチーズケーキに手を伸ばす。
甘いものばかり次から次へ。
よくもまあ、こんなに食べれるものだと呆れを通り越して感心してしまう。


「もう食べないんですか?」


誘ったのは自分だからとここの会計は男子生徒が申し出た。他に食べたいのがあればどうぞと進める彼に、一舞は首を振って断る。
彼が食べるのを見ているだけで、もうお腹いっぱいなのだ。


「ところでえーっと…」


話をふろうとして、彼の名前を知らない事に気がついた。今更名前も訊くのもどうだろう?とタイミングに迷っていると、彼の方から「冬海氷雨です」と紹介を受けた。


「冬海君っていうんだ。ねぇ、冬海君はどこの学校の生徒?この辺りじゃないんでしょ?」

「蒼夏高校です」

「ん?蒼夏高校?」


聞いた学校名に首を傾げる。一舞の間違いではなかったら、蒼夏高校はここと真逆の方向、それもかなり距離があるはず。


「蒼夏高校の生徒がどうしてこんなところに?」

「切れたガットの交換です。いつもいく店がたまたま在庫を切らしていて、そしたら店員さんがここにチェーン店があると教えてくれたんです」


ほら、と冬海が見せたのはテニスのラケット。そのラケットに張られている“糸”が“ガット”らしい。


「テニス部なんて意外だね。見た感じ文系だと思ってた」

「よく言われます。一応、部長なんですよ」

「どうりでタコがいっぱいあるわけだ」


タコができた冬海の右手は見るからに固そうで、テニスへの情熱が窺い知れる。素直に凄いと感心していると、冬海は「いえ」と謙遜して。

「貴女だって凄いじゃないですか」


一体、何の事を言っているのか解らなくて一舞は首を傾げる。ニコニコと笑う冬海は一舞の左手、正確に言えば指をさした。


「普通、固いタコが柔らかくなっています。一日何時間もギターに触る人じゃないとそうはなりません」

「氷雨!!」


名前を呼ぶと同時に拳骨。
ノーガードで後頭部に直撃だからかなり痛そうだ。事実、テーブルに突っ伏した冬海は、後頭部を抑えて痛みに悶えている。


「(って、言うか誰?)」


いきなり冬海に拳骨を喰らわせたのは、長い銀色の髪を束ねた男子生徒。きっと蒼夏生徒だ。


「テメェ!そこでじっとしてろって言ったのに、何で店の中にいるんだよ!」


銀髪君はかなり御立腹のようだが、今の冬海にそれを聞く余裕があるか。それでも銀髪君の怒りは収まらず、更にぶつける。


「しかもお前一人だと迷うから俺も行くって言ったのに、勝手に一人で行って案の定、迷った上に迎えに来いって言いながら自分は優雅にケーキとは言い御身分じゃねぇか。ああ?」


どすを効かせる銀髪君は、普通の女子だったら怖がってしまうだろう。しかしこれくらいのことで臆する一舞ではない。むしろ、いきなり殴られた冬海君が理不尽すぎると、見ていて腹が立ってきた。


「ちょっと、いきなり殴るなんて酷くない?」

「君、誰?」

「隙あり」


一舞が銀髪君に一言言ってやろうとした瞬間。テーブルに突っ伏していた冬海が銀髪君の口に何かをねじ込んだ。見間違いでなければ、あれはクリーム。

なんでクリーム?と疑問に思うより早く、クリームを食べた銀髪君はそれまでの威勢はどこへやら。崩れるように座り込んでしまった。

何?一体、何が起きたの?

状況が全く理解できない一舞を他所に、冬海が「ふっふっふ」と不敵に笑う。


「雨が降ってきたんだから、店の中にいたっていいじゃないですか。それに、ちゃんと外からも見える席にいましたよ」


ニッコリ笑って言う冬海だが、今度は銀髪君に聞く余裕がない。それでもお構いなしに――ってこれではさっきと逆ではないか。


「ところで銀竹、ここのケーキの味はどうですか?とっても人気があるお店なんです」

「クリームの塊喰わせて何言いやがる。つーか、俺は甘いものが嫌いだって知っての台詞なんだよな」


手をつけていなかった水を一気に飲み干してもまだ口の中が甘いのか、銀髪君は顔をしかめている。その反応にやった本人は満足そうだ。


「つーか氷雨、この人は誰なんだよ。どこかのマネージャーか?」

「さあ?ギターに関係しているのだけは確かです」

「何、その回答」

「ああ、それはね…」


答えになってねぇんだけど。と眉を潜めた銀髪君に一舞は順を追って説明する。そこでようやく一舞の名前と銀髪君が響銀竹という名前であるということが解り、学年の話になると。


「「高一!?」」


全く同じタイミングで驚いた冬海と響に、一舞はおされ気味になりながら「うん」と答えた。それでも今一つ信じきれない二人は一舞をじっと観察するようにみて、はあ、とこれまた同じタイミングで溜息をつく。


「高校生だとは思っていましたが、まさか一年生だったとは」

「てっきり同じ三年だと思ってた」

「一年生、東城君と同じ学年ですか」

「女子高校生、橙南と同じ性別か」

「「差がありすぎる(ます)」」


一舞を自分達の周囲にいる人と比べてみて、その差に驚き、最後には笑ってしまう。一方の一舞はどう反応していいのか迷っていると、外の様子に気付いた響が「あ」と声をあげる。


「おい、氷雨。雨止んだから帰るぞ」

「えー、もうですか?まだプリン食べていないのに」

「まだ食う気か!帰るっつったら、帰るんだよ。橘さん、氷雨が迷惑かけて悪かったな」

「ううん。ちょうどいい雨宿りになったから気にしないで」


にっこり笑えば、響も「そう言ってもらえると助かる」と笑って、まだ未練がましくメニューを見ていた冬海の腕を引っ張った。


「そんなに食べたきゃ、今度は遼か橙南を誘え!」

「知っていますか銀竹。男二人で食べるスイーツほど寒いものはないんですよ。橙南とは三日前にクレープを食べたばかりだから、もう少し間を開けないと乗ってくれないでしょうし」

「あっそ。んじゃ行くぞ。家までマラソンだからな」

「……ここから結構距離ありますよね?」

「トレーニングになってちょうどいいだろ」


賑やかに店を出て行く二人を見送った一舞は、まだ残っていたコーヒーを飲んだ。氷がすっかり溶けてしまったおかげで味が薄い。


「家まで走って帰るんだって。凄いね」

「……」


後ろの席から感じる気配に一舞は喋る。いつからそこにいたの?なんて聞かなくても解る。
きっと不貞腐れているんだろうなぁ、と想像していると後ろの席が動き、一舞の前に座ったのはやっぱり彼氏様。
案の定、不貞腐れた顔をしていてこれにも「やっぱり」と心の中で呟いた。


「あたしが浮気しているとでも思ったの?」


不貞腐れた彼氏様もとい、翔は一言「お前は無防備すぎるんだよ」とそっぽを向いたまま言う。


「でも冬海君はここのスイーツが食べたかっただけみたいだよ?」

「みたいだな。じゃなきゃ、とっくにお前を連れ戻している」

「うっわ、独占欲ー」


オーバーなリアクションをするも、これって愛されている証拠なのかな?とも思ったり。サイドの髪を掻きあげて、込み上げる嬉しさを抑えていると翔が立ち上がった。


「一舞、雨は上がったから帰るぞ」

「はいはい」


店を出ると、さっきまで雨が降っていたとは思えないほどよく晴れた空。濡れた道路や街路樹が、光を反射させて、町の中がキラキラと輝いてみえる。

こうなると、恨めしかっただけの雨も悪くなかったかもしれないと思えるのだから不思議だ。


「ところで、今日の夕飯は何だ?」

「今日はねー」


そして大好きな人と一緒に歩く帰り道。
やっぱり、突然の雨も悪くない。






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《感謝御礼from*美砂》
テニス部の方を描かせていただきたいとお願いして、一方的な感じで描かせていただいたにもかかわらず、その御礼にと小説を書いていただきましたぁぁぁぁ!!(>∀<*)
コラボですよ♪美砂は萌え禿げてつるっつるですVv冬海くん可愛い!!(>ω<*)
とめこ様☆お忙しい中本当にありがとうございました♪大切にします♪


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