.*小仁沢様から相互記念*.
Who is he?...【6】

「てか、そもそも、浮気ってのは目に見えてる情報だけで判断した仮定の事実に過ぎないわけでしょ?」

「ん?」

 洋ちゃんが突然何を言い出すんだというように首をかしげる。

「香澄が浮気してるかもっていうのは、あくまであたしたちが勝手に推測したこと。 香澄は何も言ってないんだから、気になるなら気になるで、こんなとこであーだこーだ言ってないで、香澄本人に確かめるべきだよ!」

 そうだ、簡単なことじゃない。本人に直接聞けばいい。陰でこそこそ監視するなんて、あたしの性にあわない。

 しゃがみこんだままの洋ちゃんを見降ろし、言い放つ。

「洋ちゃん、突撃しよう!」

「と、突撃?」

 あたしの言葉に洋ちゃんは目を白黒させる。

「そう突撃。中に入ってって、あの少年と香澄に問いただせばいいんだよ。もしかしたらあの少年が勘違いして一人で舞い上がってるだけかもしれないし」

 万が一、香澄が本当にあの少年に好意を抱いているなら、それまでだけども。

「で、もしあの少年が、香澄が好意を抱いているのを知っていながらあの子の純粋な気持ちを弄んで楽しんでるようなクソ野郎だったら、二人でフルボッコにしてやればいい! ね!」 

 洋ちゃんは頬をひきつらせ、「可愛い顔して恐ろしいことをさらりと言うなよ……」と呟いた。

「本当に、よくそんなことを平気で言うよな」

 聞きなれない声にハッとして、顔を上げつつ身構える。

 さっきまで店内にいたはずの少年が、わりと大きな目をすがめ、呆れた表情であたしたちの前に立っていた。

「なーんかさっきから視線感じるなーと思って見たら、昨日のチャラ男くんが窓から見てんだもん。驚いたよ。マジでストーカーかよ、あんた」

「だから、チャラ男じゃなくて、ギャル男」

「洋ちゃん、今はそんなことどーでもいいでしょ」

 少年は視線を洋ちゃんからあたしにうつし、眉間にしわを寄せる。

「随分と派手な髪色したお嬢ちゃんだね。チャ――じゃねえ、ギャル男くんの彼女か?」

 派手……って、間違いなくあたしのことだよね。

「派手で悪かったね。でも、それで何か迷惑かけた? それにこの髪は地毛だから」

「ふーん。地毛かぁ」

 少年は頭のてっぺんから足の先まで、まじまじとあたしを眺め、首をかしげる。

 あんまりじろじろ見ないでよ、そう言ってやろうと口を開いたら、

「ひょっとして、君は橘 一舞ちゃん、かな?」

「そう、だけど」

 突然名前を呼ばれ、たじろいだ。

「やっぱり! 香澄から聞いてる。一度会ってみたかったんだよな。話で聞いてた以上に美人さんだね」

「……それはどうも」

 何この子。さっきまで喧嘩売る気満々だったのに、急に親しげに話してきて。

「てことは、そっちのギャル男くんは斉藤 洋くん、だっけか? 双子の弟さんだよね?」

 洋ちゃんも少年の態度に戸惑いを感じているようで、曖昧に首を縦に振って答えただけだった。

「なんだ。それならそうと早く言ってくれりゃーよかったのに。待ってな、香澄呼んでくるから」

 少年は踵を返し、店の中へ入っていった。

 残されたあたしと洋ちゃんは思わず顔を見合わせてしまう。

「何か急に態度変わったね?」

「どういうことだろ?」

「さあ?」

「やっぱり浮気じゃなかったってことでいいのかな?」

「どうなんだろ?」

 とりあえず、香澄と少年が戻ってくるのを待つしかないか。



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