.*小仁沢様から相互記念*.
Who is he?...【5】

「でも何で? 香澄には照ちゃんという、大らかで優しくて逞しくてちょっとオッサンぽいけどカッコいい彼がいるのに」

「きっと照があまりにもオヤジっぽいから、若い子と遊んでみたくなったんだよ」

「そんなこと言ったら照ちゃんに失礼だよ。事実はどうとしても」

「一舞のその言い方も失礼だと思うよ」

 二人で植え込みにしゃがみこみ、中の様子をじっと窺う。

 楽しそうな香澄。声こそ聞こえないけれど、身体を揺らし、大きな口を開けて笑う姿は本当に楽しそう。よっぽど面白い話をしているんだろうな。

 香澄が楽しそうなのは親友のあたしとしてはとても嬉しい。ましてや小さいころのトラウマで、男の子が大の苦手なあの子が、男の子の前であんなふうに笑うなんて、本当にすごいことだと思う。

 嬉しいはずなのに、喜ばしいはずなのに、今は素直に喜べない。

「香澄は、本当に浮気をしてるの?」

 信じられなくて、信じたくなくて、洋ちゃんにもう一度訊ねる。

「俺はそう思った。でも俺よりも一舞の方が香澄のことよく知ってるだろ? 一舞はなんて言うかなって、だから連れてきたんだよ。一舞が違うっていうなら、違うんだろうってことにしようと思ってる」

 いつも明るく元気な洋ちゃんが、重々しく答える。

「判断はあたしに委ねるっての?」

「一舞から見てどうなの? って話だよ」

「ずるいなぁ、洋ちゃん」

 例えばあたしと洋ちゃんだったならどうだろう。

 あたしたちのことを知らない人が、二人で一緒にカフェでケーキを食べてるところを見たら、たぶんカップルなんだろうなーと思うだろう。 

 逆に、あたしたちのことを知ってる人、例えば翔や美樹ちゃんが、見たとしても、別に何とも思わないだろう。

 だってあたしと洋ちゃんが中学時代のバンド仲間で、同じ高校、同じ部の仲間で、仲良しだって知ってるから。

 でも、実際にカフェでケーキを食べているのはあたしの可愛くて大切な親友の香澄と、まったく知らない少年。  

 男の子が苦手な香澄が、あの香澄が、あたしたちの知らない男の子と手を繋いだり、カフェでお茶を飲んだり、あんなに楽しそうに笑っている。

 その事実だけを見れば、香澄はあの少年に心を開いているということになり、それはすなわちあの少年に少なからず好意を抱いていると考えるのが自然……けど、

「やっぱり、浮気なんてありえないよ」

 香澄に限って、そんなの絶対ない。


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