.*小仁沢様から相互記念*.
Who is he?...【3】

 日曜日、俺は美樹とデートをしたんだ……別にのろけたいわけじゃないんだって。

 午前中、美樹は用事があったから、駅で待ち合わせをしてたんだよ。

 俺の方が先について美樹を待っていたら、偶然、香澄を見つけたんだ。

 日曜日だし、照と出かけるのかなぁと思って、あえて声はかけずに離れた所から見てた。

 あたりをきょろきょろ見回してた香澄が「あ」って顔をして、すぐさま笑顔を浮かべ、手を振り始めた。

 照が来たのかと思って目をやったら、そこに照はいなくて、代わりに一人の少年がいた。

 背格好から察するに、中学生くらい。

 帽子を目深にかぶっていたから顔はわからなかったんだけどさ。

 まさかあの少年が待ち人ってわけじゃないよなぁ……と思って見てたんだけど、まさかまさかで、本当にその少年が香澄の待ち人だったんだよ。

 香澄ってば、その少年と手を繋いで嬉しそうに駅の中に消えていった。

 マンガじゃないけど、アゴが外れる勢いで驚いたよ、本当に!

 美樹との約束がなかったら、俺、きっと二人を尾行してたと思う。
 照に言うべきかどうか迷ったんだけど、俺の見間違いってことも――絶対ないとは思うけど、見間違いってこともあるかもしれないし、弟とか親戚とかかもしれないし――まぁ香澄に弟や親戚がいるなんて話も聞いたことなかったけど、とりあえずその日は香澄のことを頭から追い出して、美樹とのデートを楽しんだ。

 で次の日、つまり昨日。

 部活終わって家に帰る途中、照に借りてたCD返すのをすっかり忘れてて、照の家まで行ったんだ。

 照が帰ってなかったら香澄にでも渡しとけばいいやーなんて思いながら歩いてったら、照の家の前に誰かいるんだよ。

 咄嗟にそばにあった電柱の陰に身を隠した。

 何でそんなことしたのか自分でも不思議なんだけどねー。

 でもその判断は間違っちゃいなかったよ、だって照の家の前にいたのは香澄と、前の日に俺が見たあの少年だったんだから!

 香澄と少年は何だかすごぉく楽しそうに話をしていた。

 全部は聞き取れなかったけど、「ありがとう」とか「今日は楽しかったよ」とか「また明日ね」とかとか!

 そこで思い出したんだけど、昨日、香澄、部活休んだだろ?

 きっと、それはあの少年と会うためだったんだな。

 香澄が手を振って家の中へ入っていくのを見届けると、少年は駅の方角へ歩きだした。

 俺はすぐに少年を追いかけた。

 香澄とあの少年がどんな関係なのか、はっきりさせないと夜も眠れないと思ったからさ。

 突然目の前に立ちはだかった俺に、少年はかなり驚いていたようだった。

 いつでも走って逃げられるように、身構えながら「何だよ、あんた」って。

 想像通りまだ声変わりもしてない、間違いなく中学生だって確信した。

「突然ごめんね。ちょーっと聞きたいことがあったもんだからさ」

「……何?」

「さっき見たんだけど、君、大きな家の前で可愛らしい女の子とたのしそーにおしゃべりしてたっしょ?」

「ああ、香澄のことか」

 生意気にも「香澄」だなんて呼び捨てして、少年は少しだけ警戒を解いた。

 けども、

「そーそー。その香澄ちゃん。で、君とはどんな関係なのかな?」

「別にあんたに話す必要なくね? つーかあんた誰? そっちこそ香澄のなに?」

 だよ!? 恐がらせたらいけないかと思って、優しい言い方したのに、生意気にもほどがあるっしょ!?

 でもま、俺は大人だからぞんざいな物言いにムッとしつつも、

「俺は香澄の友達……みたいなものだよ。てか、先に俺の質問に答えてほしいんだけどなぁ」

 と紳士的に、つとめて静かに語り掛けたわけよ。

「あーそー、友達か。ならよかった。香澄をつけ狙うどこぞの頭の悪いチャラ男ストーカーかと思った」

「……誤解があるようだから言わせてもらうけど、俺はチャラ男じゃないから。よくギャル男と言われることはあるけど、断じてチャラ男ではないから。そこんとこ気をつけて」

「いや、どっちだっていいから。なら俺も言わせてもらうけど、」

 少年は姿勢をただし、真っすぐに俺を見上げて言った。

「香澄は俺のだから手出さないでね。友達なら友達らしく、節度ある付き合いをお願いしますよ、ギャル男くん」

「なっ」

 俺が口を開くよりも早く、「そんじゃあね」と手を振りながら、少年は走り去って行った。

 追いかけようとも思ったけど、追いかけて、それからどうする? って考えたら、そんな気はすぐになくなった。

 何食わぬ顔して照の家に行き、戻っていた照にCDを返して、家に帰った。

 このことは照にも香澄にも言っていない。




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