やっぱり心配なんです(Veil*番外編) |
とある早朝。 カラフルなインテリアで埋め尽くされた主の寝室。 突然《Cyndi Lauper》の名曲が最大音量で流れだし、枕元に置いてある携帯電話が早く起きろと騒ぎだした。 起床予定の時刻ではなかったが、大好きなCyndiの歌声で瞬時に浮かれた表情になったヒロは、軽い動作で飛び起きる。そしてすぐさま電話に出ると ヒロ 「はぁ〜い〜?」 ?? 「おう!ヒロ!どうなってんだいったい!」 ヒロ 「あ〜・・・こうちゃんおはよぉ〜」 電話の相手は皓市。 のんびりとした口調で電話に出れば、真っ先に聴こえてくる怒鳴り声。 いったい何事なのかは不明だが、彼に怒鳴られる事には慣れてしまっているので動じない。 皓市 「おはようじゃねぇ!呑気な声出しやがって!もしもの事があったらただじゃおかねぇぞ!わかってんのか!」 ヒロ 「・・・え〜?・・・なんの話ぃ〜?」 と。 間延びした声が話し終えぬうちに、一階のサロンスペースから騒音が聴こえてきた。どうやら皓市が乗り込んできたらしい。 状況を判断している間に物音はどんどん近づいて、ダァーンッ!!という一際大きな音を響かせ、ヒロの寝室のドアが開くと、まるで般若のような顔をした皓市が、携帯電話を耳元に押し当てたまま入ってきた。 ヒロ 「こうちゃんの顔こわぁ〜い。ふひゃひゃッ♪」 皓市 「笑ってんじゃねぇ!」 いったい何をそんなにご立腹なのか。耳元の携帯電話をようやく閉じ、ヒロの胸倉をつかむと、ドスの効いた声で用件の説明が始まる。 皓市 「夏物はまだかよ」 ヒロ 「あ。忘れてた」 皓市 「よし。今すぐ葬式の準備しろや」 ヒロ 「あははははっ、ちょ、まってまって〜!すぐ発注するからぁ〜!」 季節はもはや本格的に夏を迎えようとしていた。 校則の厳しい中学に通っている皓市の娘が、ひょんな事からカツラ生活を余儀なくされている。 暑い日差しの下、ガッチリと固定され、頭を丸ごと包み込むカツラで日々を過ごす娘が、皓市はとにかく心配なのだ。 そもそもそうなった原因は皓市にあるのだが、カツラなどという物を必要としなければならない状況に追い込んだのは、この呑気なカリスマ美容師のヒロである。 定期的にケアをするのが第一条件だったはず。 忘れていたなどという台詞は断じて許されない。 皓市にとっては、大事な一人娘が自分よりも先に禿げてしまうのではないかと気が気では無いのだから。 皓市 「早くしろこんの薄らトンカチ野郎が!テメェのせいで綾のヤツが禿げ散らかすような事になったらぜってぇ許さねぇからな!覚悟しやがれ!」 ヒロ 「やぁ〜だぁ〜!あはははは!ごめんってばぁ〜!」 学校に行っている間、こんな攻防戦が繰り広げられていたなど、当の本人は露と知らず。 綾の手元には無事その日のうちに、夏物のカリスマ特製フルウィッグが届いたのだった。 |