お兄さんと一緒(「en aparte'」番外編)
2013/10/14



一舞
「I'm singin' in the rain〜♪ Just singin' in the rain〜♪ What a glorious feelin' I'm happy again〜♪」

椋橋
「お?」

高倉
「”雨に唄えば”・・・やな。てかふっる」

一舞
「でもええ歌やん」

高倉
「わかるで。俺も好きやもん」

椋橋
「タカさんの声では上手ないけどな」

高倉
「そうやねん。俺のダミ声やと上手ないねん・・・って椋橋には言われたないわ」


 雨の公道をひた走る車内。軽い冗談で零れ聴こえる仲の良い笑い声と、何気なく歌いだした一舞の歌声が耳に優しい。

 彰はまだタオルに包まったまま、少々の寒さと緊張で震えていた。

 その緊張を癒そうと考えたのか、窓に打ち付ける雨音に合わせ、一舞は古い名曲を口ずさんでいる。


椋橋
「なんか食うか?」


「・・・え?」

椋橋
「ほれ。さっき買うてん。雨で濡れてもうてるけど外側だけやし食えるで」


「・・・あ、ありがと・・・ございます」



 椋橋のその大きな身体には少々狭い車内だったが、なんとかシートの間を移動して彰の隣に腰かけたかと思えば、徐にコンビニ袋をガザガザと探り、取り出した菓子を小さな手に握らせた。どうやら携帯簡易食のようだ。

 ウッカリ敬語を忘れそうになりながらもなんとか御礼を言うと彰は、覚束無い様子でその袋をこじ開けた。

 隣では椋橋も同じ物を頬張っている。そしてあっという間に飲み込むと、コッソリと彰に耳打ちする。



椋橋
「あんな?今歌てる兄ちゃんな?普段は絶対て言うてもええほど、人前では歌わへんねんで」


「・・・え、でもすごく」

椋橋
「上手いやろ」


「うん」

椋橋
「もったいないやんな」


「うん・・・うん」

椋橋
「お前のためやったら歌うのに、なんでやろな〜て俺は今、思うてんねんけどな。どう思う?」


「・・・?」

椋橋
「って聞かれても困るわな。ははっ」


「・・・」



 透明で優しい歌声。一舞の歌はまだ車内に優しく響いている。

 椋橋の言葉に何度も頷いた。本当に勿体ないと思った。彰は菓子をチマチマと頬張りながら、その歌声を聴き逃すまいと耳を澄ます。

 まるで全てが包みこまれるかのようなその声色は、一舞その人の内面をも表しているようでとても心地良い。

 雨に濡れて凍えた彰の身体は、その心地よさで、胸の内側からジワジワと温かな熱を取り戻していくようだった。







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