どっちが年上なんだか(Veil*番外編)
2013/06/28



ヒロ
「こうちゃんこうちゃんこうちゃーん!!こーおーちゃーんッ!!」

こうちゃん
「・・・は?」



 俺が18の頃の、ある日の出来事。

 学校をサボって自分の部屋で呑気に紫煙を吐き出していた時だった。

 二軒隣のラーメン屋から息を切らせて走って来たかと思えば、自宅二階の俺の部屋めがけて大声で叫ぶ馬鹿がいる。それじゃ俺がここに居ることがバレちまうじゃねぇか。

 窓から顔を出し確認すれば、俺の顔を見るなり更にキラキラと顔を輝かせる。まったく邪魔してくれる。


こうちゃん
「うっせーよ馬鹿!いいから静かに上がって来い!」


 俺の言葉に大きく頷くと、頭上高く掲げていた入れ物のような何かを大事そうに抱え、”静かに”の意味がわからないのか「おじゃましまーす!」という大声とともに家に入ってきた。

 ドタドタと忙しない足音を響かせ、廊下の途中で滑って転んだらしき破壊音を轟かせ、ようやく俺の部屋までたどり着くと喧しく襖を開いた。


ヒロ
「こうちゃん見てー!!」

こうちゃん
「うっせーってんだよ。少しは落ち着いて行動するってことがどうしてできねぇかなお前は。つーかテメェ今年いくつだ」

ヒロ
「へ?・・・23さい」

こうちゃん
「”歳”くらい漢字で言え。知能は5歳児並みじゃねぇかめんどくせぇ」

ヒロ
「そんなことないもん。ヒロさんこれでも彼女いるし」

こうちゃん
「・・・また新しいのできたのか」

ヒロ
「そうだよー。こうちゃんはぁ?」

こうちゃん
「・・・う、うっせーそんなんどうでもいいんだよ!とにかく何か見せてぇんだろ?」

ヒロ
「そうそう!見せたかったの!これー!」

こうちゃん
「・・・」


 目の前に差し出されたのは、先ほど大事そうに抱えていた入れ物。どうやら素麺か何かの木箱のようだ。

 なにやら蓋には無数の穴が開けられており、虫か何かでも捕まえたのかと思って眺めていると、目の前でその蓋が取り払われた。


こうちゃん
「・・・なんだこれ?」


 覚束無い様子でこじ開けられたその中には、これでもかと綿毛のような物体が詰められている。


ヒロ
「ケサランパサラン!」

こうちゃん
「・・・・は?」

ヒロ
「知らないの?ケサランパサラン!生き物だよ?」

こうちゃん
「・・・タンポポの綿毛じゃねぇの?」

ヒロ
「ちっがうよー!伝説の未確認生物ー!さっきヒロさんの部屋にふわふわって!ふわふわって入ってきたの!」

こうちゃん
「・・・・・・・・お前」

ヒロ
「ねー!ねー!凄くなーい!?」

こうちゃん
「お前一回病院行けマジで」

ヒロ
「?・・・どこも悪くないよ?ヒロさん超健康体!」

こうちゃん
「違う。脳みそ調べてもらえって言ってんだよ」

ヒロ
「えー?なんでー?」

こうちゃん
「タンポポじゃねぇなら何だコレ。あれか?うさぎの毛でも集めてきたのか」

ヒロ
「タンポポでもウサギさんでもないよ・・・・こうちゃんなら信じてくれると思ったのに」

こうちゃん
「信じるも何も、こんなモンが生き物だなんてどう見ても納得できねぇだろうが」

ヒロ
「・・・生き物なんだよ?こうやって箱に穴開けておかないと窒息しちゃうし、エサは白粉で、香料とか着色料とか入ってたらダメなんだって。ヒロさん、図書館で調べたんだよ?」

こうちゃん
「・・・」

ヒロさん
「ずっと飼ってみたいって思ってたこの子たちが、部屋に入ってきてくれたから、一番にこうちゃんに見せようと思って持ってきたのに・・・信じてくれないの?」

こうちゃん
「・・・・・・まあ、アレだ」

ヒロ
「?」

こうちゃん
「見せてくれてありがとうな」

ヒロ
「!・・・うん!」

こうちゃん
「でもコレは、俺とお前の秘密にしよう」

ヒロ
「へ?・・・でもみんなに」

こうちゃん
「こういう不思議生物ってモンはな?あまり他人に見せると消えちまう可能性があんだよ」

ヒロ
「え!?そうなの!?」

こうちゃん
「そう。だから、ここだけの秘密な」

ヒロ
「う、うん!わかった!」

こうちゃん
「・・・じゃあソレ。もう部屋にしまってこいよ」

ヒロ
「そうだね。消えちゃったら悲しいもんね」

こうちゃん
「・・・」

ヒロ
「あ!白粉買ってこなきゃ!」

こうちゃん
「あと親父さんの手伝いもな」

ヒロ
「そうだー!パパにお使い頼まれてたんだったー!」

こうちゃん
「・・・・」



 きゃーきゃーと甲高い叫び声をあげながら、俺に盛大に手を振って走り去っていった変な奴。

 あいつが俺より五つも年上だなんて信じらんねぇな。

 何はともあれ何故かもの凄く懐かれているのが不思議でならねぇが。嫌われるよりはいいか。


こうちゃん
「・・・ケサランパサランねぇ」


 どうでもいいが、俺にはウサギのケツの毛にしか見えなかったぞ。


 あれから何年も月日が経って、俺もアイツも大人を通り越してオッサンになったが。

 今でもあの妙な綿毛を隠しているんだろうか・・・?






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