初心恋[うぶこい]フィルターB(LongNovel/CRIMSON Baby*番外編)
2013/02/06




「さて・・・出かけるか」

由紀
「!!!!!」ドキューン!!


  ドサッ・・・



「?・・・は?」



 わたしの脳内で、今まで聞いたことがない凄い音がしました。

 勢い余ってか、そのまま後ろに倒れる形で身体が硬直してしまったようです。

 どうしましょう・・・耳鳴りまでしてきました。



「おい、なんだ。どうした」


 どうしたと聞かれても困ります。わたしのほうが驚いているのですから。

 意識はハッキリしているのです。でも先ほどの音に驚いたからなのか、再び早鐘を打つ心臓のせいなのか、身体が言う事を聞いてくれません。


 今、わたしの目の前で何が起きたのか。それを説明するのは簡単です。

 単純に、先輩が眼鏡を外したのです。眼鏡を外しただけなのです。

 ただそれだけなのに、胸を打ち抜かれた気分になったのは何故なのでしょうか。




「・・・まったく」


 ギ・・・


由紀
「ぅ・・・(はっ!)」


 鈍い音をたててベッドが軋み、先輩がわたしを、真上から見下ろしました。

 視界の片隅。自分の肩越しにある先輩の腕。この体制はとても・・・とても恥ずかしいです。

 こうして見下ろされているわたしは、まるで・・・まるで・・・。




「どうした?」

由紀
「ぁ・・・ぁの」


 眼鏡を外した状態で、見辛そうに目を細めるその表情が、今はとても近くて心臓が破裂しそうです。



「・・・なんだ。誘っているのか?」

由紀
「!」


 さ、誘うだなんてそんな事わたしが出来る筈ないじゃないですか!

 そう言いたくても言えず、口をパクパク動かすことしかできません。


 先輩はゆっくりわたしから離れると再び眼鏡を装着し、携帯電話と財布を無造作にポケットに放り込みました。



「俺を誘うなど・・・お前に限ってそれは無いな。というか、誘うならもっとやり方を考えた方がいい」


 ごもっともです先輩。本よりわたしにそんな勇気はありません。



「起きろ。出かけるぞ」

由紀
「きゃっ!?」


 腕を引かれ、頭を支えられた状態で無理矢理上体を起こされたわたしの口から、思わず悲鳴が上がりました。



「いちいち騒がしいな」

由紀
「あの・・・出かけるとは、何処へ、ですか?」


「・・・行けばわかる」

由紀
「・・・」


 せっかく先輩のお部屋を訪れたというのに、すぐに外出だなんてなんだか勿体ない気がしますが。わたしを呼んだ当初の目的がそうなら仕方のない事ですが・・・。

 途端になんだか寂しさを覚え、心臓の鼓動も先ほどまでの動揺も、一気に冷めてしまいました。


(いったい何処へ行くのでしょうか・・・?)



《まだつづく》





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