初心恋[うぶこい]フィルターA(LongNovel/CRIMSON Baby*番外編)
2013/02/02



(あれ?・・・そういえば)


 階段を昇りながらふと気づきました。


(・・・眼鏡)


 先ほど窓辺に顔を出された先輩が、見慣れない眼鏡をされていたことに気づいたのです。


(外ではコンタクトなのでしょうか・・・?)


 先輩の綺麗なお顔に乗せられた、たしか黒縁の眼鏡だったと思いますが・・・。

 一瞬の出来事だったために記憶が曖昧ですが、きっととても素敵だったに違いありません。

 いつもなら見られないのであろうそのお姿を一瞬でも拝見できたことに、言い知れぬ感動を覚えました。そして今、そのお姿を間近に拝見できることをとても嬉しく感じて、緊張で加速していた鼓動が更に騒がしくなるのです。



 コンコン・・・



『・・・入れ』

由紀
「し、失礼いたします」


 恐る恐るノックした木製のドア。その奥から聞こえたドア越しの先輩の声。

 緊張で少し手が震えています。震える手で触れた冷たいドアノブが、自分の体温で急激に温まる感覚までもが緊張します。

 そっと開いたドアの隙間から恐々と中を覗けば、シャツのボタンに手を掛けている先輩と目が合いました。


由紀
「きゃっ」


「は?・・・何故悲鳴を上げるんだ。覗いてないでさっさと入れ」


 これは・・・これはいけません。先輩は着替え中じゃないですか。

 「入れ」と言われてしまっては従わなければいけませんが、問題無さげに言い放った先輩のお姿をとても直視などできません。



「・・・心配するな。もう終わった」


 そう言ってわたしの腕を掴み、部屋の奥へと誘導するその手の熱さも恥ずかしいのです。

 きっと真っ赤になっているであろうこの顔など先輩は見慣れてしまったのでしょう。掴まれていない方の手で自分の顔を押さえるわたしをベッドに座らせるとすぐに離れて行きました。

 わたしが座ったことで少々沈んだ柔らかなお布団。そこから香る部屋に入った時から感じていた先輩の香り。ふんわりと一層強くなった其れに、眩暈を起こしそうになりました。



「・・・そんなに固くなるな。何もしない」

由紀
「す、すみません・・・誰かのお部屋にお邪魔する事に慣れていないものですから・・・」


「そんなことはわかっている」

由紀
「・・・」


「・・・」


 会話が止まってしまいました。

 わたしの緊張は相変わらずですが、せっかく呼んでいただいたのにこのままウジウジしていては失礼です。そっと顔を上げて、再び先輩の方へ目を向けました。


由紀
「・・・」


 見上げた先輩は、何やら出掛ける準備をされているように見えます。そして・・・やはり眼鏡を掛けてらっしゃる。


(黒縁・・・)


 正解です。黒縁眼鏡です。

 いつの間にかわたしの心臓は大人しくなり、ただただ先輩の眼鏡姿に見とれてしまっていたのでした。



《つづく》





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