初心恋[うぶこい]フィルター@(LongNovel/CRIMSON Baby*番外編) |
いつものお茶の時間のことでした。 傍らに置いてあった携帯電話が鳴り、お母様との会話が途切れたのです。 最近ではいつもマナーモードを解除している携帯電話。気づかないなんてことが無いようにと最大に設定された着信音量。お母様もお父様もそれはそれは驚いてしまわれました。 由紀 「はははい!もしもし」 ??? 「30分で家に来い」 慌てて電話にでると、穏やかで優しい、聴き慣れた声。 由紀 「え・・・で、でも今は」 ??? 「待っている」 プッ・・・ツーッ・・・ツーッ・・・ツーッ・・・ 由紀 「・・・ま」 今はお茶の時間です。 家族との会話を楽しむ大切な時間です。 本来ならお断りしなければいけないのでしょう・・・だけど、わたしは席を立ちました。 お父様はお怒りだけど、お母様は察してくださったようなので安心です。 とにかく急いで身支度を整えて、家を出なくてはいけません。 だって・・・だって「待っている」と言われたら、それはやっぱり、少しでも早く向かわなくては!と思うじゃないですか。 数分後。辿り着いた家の前。ここまでは以前にも来たことがあるのですぐに分りましたが・・・その敷地内に立ち入っていいのか迷い、しかし急いでメールを送信します。 メールの送信画面が通常の待ち受け画面に戻った瞬間。目の前で、二階の窓がガラリと開きました。 蓮 「早かったな。そんなところに居ないで入って来い」 由紀 「・・・は、はい」 緊張します。 ガラガラと音を立てて開いた玄関の引き戸。その格子から差し込む昼下がりの日差しがわたしの影を屋内へ伸ばします。 とても。とてもとても緊張します。 由紀 「お、お邪魔・・・」 洋 「あっれ?ユッキーじゃん。いらっしゃーい」 由紀 「あ!よ、洋先輩。おおお邪魔します」 洋 「あ〜ん・・・ふふふ。蓮なら二階上がってすぐの部屋に居るよん」 由紀 「あ、あ、ありがとう、ございます」 洋 「案内しようか?」 由紀 「いいい、いえ!今ご説明いただいた、ので、だ、大丈夫です!」 洋 「え〜?残念〜。ふひゃひゃっ♪そんじゃ洋くんは美樹ちゃん家に行ってくるからぁ、てか、誰も居なくなっちゃうけど、気を付けてね」 由紀 「?」 ニコニコと可愛らしいいつもの笑顔でわたしに向かって手を振ると、洋先輩は玄関を出て行ってしまいました。 なんだか意味ありげな様子にも見えた洋先輩の笑顔ですが、蓮先輩のお部屋を教えてもらえたのはラッキーだったと思います。 先輩のお宅にお邪魔するのは今日が初めてでどうしても緊張してしまいますが、いったいどんなお部屋なのかとそれはとても楽しみなのです。 一段一段踏み締めるたびにギシギシと音をたてる階段が、わたしの胸のドキドキを加速させていくのでした。 《つづく》 |