あの日の記憶(TrinityB参照 * おまけ) |
「まま?・・・まぁま?」 ある夜。 何のキッカケか、ふと目覚めた幼き日の翔。母を探して屋敷の中を裸足で歩きまわっていました。 広い広い廊下、高い高い天井、どこまで歩いても明かりにたどり着けない暗闇。小さな手で連れているのは、母から貰ったクマのぬいぐるみ。寂しさに泣き出しそうになりながら、ようやく辿り着いたのは大きな階段です。 幼い彼には、その一段でさえ高く険しい難所。それでも手すりを頼りにそっと足を下ろします。 階段を下りたからと言って、探し人に会えるとは限らない。それでも彼は・・・。 「おっと・・・間に合わなかったか」 静かに呟かれた声と、階段の一番上で差し出された大きな手。見下ろされる其処には、転げ落ちてうずくまる小さな体。 別の部屋に居た父親が、翔の声に気づいて出てきたようでした。 父・紗梛は、階段下でうずくまる我が子をそっと抱き上げ、怪我が無い事を確認するとそのまま二階へと運びます。 気を失ったまま眠る幼い彼に、父は囁きました。 「翔・・・お前は要らないらしいよ・・・」 その囁きはとても寂しげで、真っ暗な廊下に静かに響きました。 「ママは出て行ってしまったよ・・・どうしてだろうね」 どうしてだろう?そんな事を幼い彼に聞いたところで答えなどわからないのは知っていましたが、紗梛もきっと辛かったのでしょう。小さな体を抱きしめるようにして一緒にベッドに潜り込むと、母譲りの美しい髪を撫でながら、浅い眠りにつくのでした・・・。 翔 「おい」 紗梛 「ん?」 翔 「なんでアンタが此処に居る?」 紗梛 「・・・久し振りに帰った父親に対してそんな冷たい事言うのか」 時は過ぎ、時刻は真夜中。 突然、行方知れずだった父が舞い戻ったのは、翔が中学を卒業したその日。 翔 「まだ優しい方だと思うが?だいたい、真夜中に突然帰宅して、15を過ぎた息子の布団に潜り込む父親なんて悪趣味極まりないぞ」 どの面下げて帰って来た?と言わんばかりに父を睨むのは他ならぬ息子である。 紗梛 「昔はよく一緒に寝たじゃないか」 翔 「だから何時の話だっつーんだよ。つーか、じじいの包囲網をよく掻い潜れたなクソ親父」 紗梛 「んー・・・それはそうと、服は着てた方がいいぞ?何時なにがあるかわからない」 翔 「話を逸らすな」 それにしてもよくぞここまで育ったものだと、息子の体をしげしげ眺める父親。いったい何の用があって帰ったのだろうか。そう思うや否や、翔の部屋のドアが乱暴に開かれた。 入って来たのは黒服の男5人組。これこそ祖父の包囲網の一つである。 黒服の男たちは素早くフォーメーションを整え紗梛を取り押さえると、翔の前に壁となって立ちはだかった。 紗梛 「今回は馬鹿に早くないか?」 黒服 「・・・」 質問になど答えてくれる筈がない。 紗梛 「親父め・・・」 紗梛がそう呟くのとほぼ同時に、黒服の男たちは彼を連れて部屋を後にした。なんとも仕事が早いのだ。 数秒後。 『高校進学おめでとーう!!』 廊下から聞こえた父の叫び。 そうか。それが言いたくて来たのかと、翔はようやく納得した。 一応は何かをしようという気持ちがあるようだが、結局あの父親は厄介事しか持ち込まないのも分っている。 甘い顔などしてやるものか。そう心の中で誓うと、再び布団に潜り込んだ。 |