何故だ(Trinity After Memory予告編)
2012/12/29




「急に何?てか電話口でんなデカい声出さなくても聞こえてるし」


 高校進学から日も浅いとある昼下がり。

 自宅の二階にある自分の部屋でギターの手入れをしていた翔の携帯電話に、誰かから電話が来たようだ。



『ばーか。デケー声は生まれつきだ。んなことよりバンドのことで話あんだけどよぉ』


 電話の相手は珍しいことに学だ。それにしてもバンドのことでとは、いったいどういう要件なのだろうか?



「バンドのことは、彰さんと学さんで決めんじゃねーの?次の練習まではまだ日数あるし」


『いやいや、その練習場所が問題なんだよ』


「なんで」


『なんでって』


「だって学校使えるじゃん。じじいが何か言ってきた?」


『いや理事長は何も。ただ校長がな。他の生徒が練習できないから他探せ。じゃねーとバンド部解散させっぞとか言ってきやがってよ』


「・・・ふぅん。それで大人しく引き下がるなんて珍しいんじゃね?どっか悪ぃの?」


『ばっかお前。俺の高校生活は姉ちゃんの顔で成り立ってんだからな。それ潰すわけにゃいかねぇんだよ。だから時には我慢もする。俺でも』


「・・・我慢」


『でな?お前の部屋使えねーかなと思って電話したんだけどよ』


「・・・あぁ。そういうこと」


『あんだけ広けりゃ問題ねぇだろ?どうよ?』


「べつにいいけど」


『そうか悪ぃな。んじゃちょこちょこ機材そっちに移動すっから、受け入れ頼むわ』


「いや。機材ならだいたい揃ってるからウチの使いなよ。そのほうが俺は助かる」


『マジか?わかった。そうするわ。・・・ところでよ』


「なに?」


『なんでお前。アキラには敬語で俺にはタメなんだ?』


「え・・・なんとなく?」


『なんとなくってなんだよ。俺は先輩だぞ』


「あー・・・そう・・・っすね」


『あーって、今思い出したみたいなのやめろ』


「だって今思い出したし」


『ナメてんな』


「べつにナメてないっすよ。尊敬はしてないけど」


『なにぃ!?』


「てか、じゃあ聞きますけど。学さんにはどんな恩義感じればいいですか?」


『はぁっ!?』


「だってさ。彰さんはある意味命の恩人なわけだし。いろいろ落ち着いて相談とかできるし」


『・・・』


「でも学さんには、あの事件の時、おもっきし蹴られたし、拉致監禁されたし、何かっつーと怒鳴るはわ殴るわ良いとこねーんだもん」


『てめぇ・・・』


「自分の胸に手ぇあてて思い出してみ?」


『あのなぁ・・・お前そうは言うけどよ?あの事件の時だって、俺が動かなかったらアキラは今いなかったかもしんねーし、お前だってどうなってたかわかんねーんだぞ?』


「・・・・・・・あー。そうかもしんねーっすね。すんません」


『反省してねーだろ』


「えぇ、まったく」


『テメェ正直すぎんだよ!もっと包み隠せ!』


「はぁ。とりあえずこれからは学さんにも敬語使いますから、この辺で切っていいですか?そろそろ耳痛ぇ」


『くっそ!テメェ!覚えてろよ!!』


 ブッツリと乱暴に切られた通話。ようやく耳から携帯電話を離すと軽く耳鳴りがした。


??
「ふっ、くふふっ」


 途端に聞こえた笑い声。その声の方へ目線を向けると、昼下がりの温かい日差しが差し込む大きな窓辺に長身の影。



「彰さんまで何すか。ってかまた、どこから入ってきたんですか」


「ふふふ、ちゃんと玄関から入ったよ?がっくんの声が大きすぎて気配に気づかなかっただけでしょ」


「・・・なるほど」


「ところで翔は、学のこと嫌いなのかな?」


「・・・別に、嫌いではないですよ。尊敬してないだけで」


「ふーん。くっくっくっ、嫌われてないだけマシか」


「ああいう・・・いつもテンションが爆音の人って苦手なんすよ」


「・・・」


 一瞬の沈黙のあと、部屋に響きわたった彰の笑い声。どうやらツボにはまったらしい。



「て、テンションが爆音って・・・!!!」


 腹を抱えて爆笑している大男は、いったい何の用があって翔の元へ訪れたのか。

 翔は、まるで何事も無いかのように、再びギターの手入れを再開する。

 なんとも平和な昼下がりであった。











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