何故だ(Trinity After Memory予告編) |
翔 「急に何?てか電話口でんなデカい声出さなくても聞こえてるし」 高校進学から日も浅いとある昼下がり。 自宅の二階にある自分の部屋でギターの手入れをしていた翔の携帯電話に、誰かから電話が来たようだ。 学 『ばーか。デケー声は生まれつきだ。んなことよりバンドのことで話あんだけどよぉ』 電話の相手は珍しいことに学だ。それにしてもバンドのことでとは、いったいどういう要件なのだろうか? 翔 「バンドのことは、彰さんと学さんで決めんじゃねーの?次の練習まではまだ日数あるし」 学 『いやいや、その練習場所が問題なんだよ』 翔 「なんで」 学 『なんでって』 翔 「だって学校使えるじゃん。じじいが何か言ってきた?」 学 『いや理事長は何も。ただ校長がな。他の生徒が練習できないから他探せ。じゃねーとバンド部解散させっぞとか言ってきやがってよ』 翔 「・・・ふぅん。それで大人しく引き下がるなんて珍しいんじゃね?どっか悪ぃの?」 学 『ばっかお前。俺の高校生活は姉ちゃんの顔で成り立ってんだからな。それ潰すわけにゃいかねぇんだよ。だから時には我慢もする。俺でも』 翔 「・・・我慢」 学 『でな?お前の部屋使えねーかなと思って電話したんだけどよ』 翔 「・・・あぁ。そういうこと」 学 『あんだけ広けりゃ問題ねぇだろ?どうよ?』 翔 「べつにいいけど」 学 『そうか悪ぃな。んじゃちょこちょこ機材そっちに移動すっから、受け入れ頼むわ』 翔 「いや。機材ならだいたい揃ってるからウチの使いなよ。そのほうが俺は助かる」 学 『マジか?わかった。そうするわ。・・・ところでよ』 翔 「なに?」 学 『なんでお前。アキラには敬語で俺にはタメなんだ?』 翔 「え・・・なんとなく?」 学 『なんとなくってなんだよ。俺は先輩だぞ』 翔 「あー・・・そう・・・っすね」 学 『あーって、今思い出したみたいなのやめろ』 翔 「だって今思い出したし」 学 『ナメてんな』 翔 「べつにナメてないっすよ。尊敬はしてないけど」 学 『なにぃ!?』 翔 「てか、じゃあ聞きますけど。学さんにはどんな恩義感じればいいですか?」 学 『はぁっ!?』 翔 「だってさ。彰さんはある意味命の恩人なわけだし。いろいろ落ち着いて相談とかできるし」 学 『・・・』 翔 「でも学さんには、あの事件の時、おもっきし蹴られたし、拉致監禁されたし、何かっつーと怒鳴るはわ殴るわ良いとこねーんだもん」 学 『てめぇ・・・』 翔 「自分の胸に手ぇあてて思い出してみ?」 学 『あのなぁ・・・お前そうは言うけどよ?あの事件の時だって、俺が動かなかったらアキラは今いなかったかもしんねーし、お前だってどうなってたかわかんねーんだぞ?』 翔 「・・・・・・・あー。そうかもしんねーっすね。すんません」 学 『反省してねーだろ』 翔 「えぇ、まったく」 学 『テメェ正直すぎんだよ!もっと包み隠せ!』 翔 「はぁ。とりあえずこれからは学さんにも敬語使いますから、この辺で切っていいですか?そろそろ耳痛ぇ」 学 『くっそ!テメェ!覚えてろよ!!』 ブッツリと乱暴に切られた通話。ようやく耳から携帯電話を離すと軽く耳鳴りがした。 ?? 「ふっ、くふふっ」 途端に聞こえた笑い声。その声の方へ目線を向けると、昼下がりの温かい日差しが差し込む大きな窓辺に長身の影。 翔 「彰さんまで何すか。ってかまた、どこから入ってきたんですか」 彰 「ふふふ、ちゃんと玄関から入ったよ?がっくんの声が大きすぎて気配に気づかなかっただけでしょ」 翔 「・・・なるほど」 彰 「ところで翔は、学のこと嫌いなのかな?」 翔 「・・・別に、嫌いではないですよ。尊敬してないだけで」 彰 「ふーん。くっくっくっ、嫌われてないだけマシか」 翔 「ああいう・・・いつもテンションが爆音の人って苦手なんすよ」 彰 「・・・」 一瞬の沈黙のあと、部屋に響きわたった彰の笑い声。どうやらツボにはまったらしい。 彰 「て、テンションが爆音って・・・!!!」 腹を抱えて爆笑している大男は、いったい何の用があって翔の元へ訪れたのか。 翔は、まるで何事も無いかのように、再びギターの手入れを再開する。 なんとも平和な昼下がりであった。 |