これも何かの(TrinityB番外編)
2012/10/09




「お疲れさん」


「おー」


「殴り込み行きたかっただろうに、よく我慢したね。ふふ」


「うっせーわ。誰のせいでこんな面倒な事になってると思ってんだよ」


「あれ?俺のために頑張ってくれたの?じゃあご褒美が必要だな」


「や、それは遠慮しとく」


 中学生たちが去った後の夜蝶たちの巣。

 薄暗い男部屋では保護者役から解放された学がやれやれとベッドに転がったところだ。

 包帯だらけの親友、彰は、隣でニコニコと学を眺めている。

 先ほどまでの騒々しさが嘘のように静まり返った部屋。学はそのまま寝てしまうつもりなのか、ゆっくりと目を閉じた。その瞬間。

 カタンと音がしたかと思えば、男部屋の入口に小さな人影。



「あ、起こしちゃったかな?」


「ん?」

一舞
「ふぁ・・・だれか来てたの?」


「うん。友達がね。五月蠅くてごめんね一舞」

一舞
「・・・ううん・・・アキラくんは、もうイタいのなおった?」


「ああ、もう平気だよ」

一舞
「・・・そか・・・あれ・・・ママは?」


「まだ仕事中だ。でももう少しで帰んだろ」

一舞
「・・・そか」


「がっくんはもうお仕事終わったし、俺達二人ともこれから寝るだけだから、一舞も安心して寝てていいよ」

一舞
「・・・ん」


「姉ちゃんが帰ったら教えてやろうか?」

一舞
「・・・ん」


「・・・一舞?」

一舞
「・・・・」


「・・・おい。そこで寝んな」

一舞
「・・・・・・」


 この部屋に住む、もう一人の小さな住人。主の娘。

 物音で目を覚ましたのかと思いきや、男部屋の入口で立ったまま寝ようとしている。



「ったく、しょーがねーな」


「器用だな。ふははっ」


「運んでくるわ」


「わかった」


 怪我人である彰が熟睡してはいけない理由。そして学が本当に保護しなければならない人間。それが彼女だ。

 彼女の存在に気づくことなく帰っていった三人も後に出会うことになるが、この時はまだ、その存在すら知らなかった。

 タイミングが数秒早ければこの時会っていたかもしれない。これも何かの運命か。


 まるで自分の娘を見守るような眼差しで、その小さな存在を見遣る狂犬と狼。

 一舞はこうして守られながら、すくすくと成長していくのだった。






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