探偵ごっこ【2】(TrinityB番外編)
2012/10/04




「カラオケか・・・」

透瑠
「は?」


「いや、翔もカラオケとか歌たりすんねやなーと思て」

透瑠
「あー、歌うのも昔から好きみたいだよ?っていうかかなり上手いって評判」


「そうなん?イケメンで、ええ匂いして、ギター弾けて、尚且つ歌も上手いとか、天が何物も与えすぎちゃう?」

透瑠
「・・・だから一番大事なものが与えられてないんじゃないの?」


「・・・・重い!冗談言うてんねやから冗談で返してー!」

透瑠
「あはは、ごめ〜ん」


 繁華街のとあるカラオケ店。その傍らにある路地裏に身を顰め、翔の動きを待つ二人。探偵ごっこの真っ最中である。


透瑠
「それにしてもさっきの人は凄かったね。ピアス」


「せやなー。耳の穴が何処かわからんようになるんちゃうかーて感じやったな」

透瑠
「いやそれはわかるでしょ」


 まったくいったい何の会話なのか、今の所まだ平和なようだ。



「そうかー・・・翔は歌も好きなんやー」

透瑠
「またその話に戻るの?」


「あかん?ってか聴いてみたいなーと思ってんけど」

透瑠
「今夜の相手はその歌声が聴きたいっていう彼女だったと思う。なんなら純もローテーションに入れてもらえば?」


「・・・お前なぁ」


 時々少々毒を吐く透瑠には純ももう慣れたものだが、とにかくただ待っているのには飽きてきた。

 そっと路地裏から煌びやかな道路へ顔を覗かせれば、酔った客を見送る着飾った仕事人たちが目に入る。あの出で立ちに似た男が先ほど、翔の居るカラオケ店に入っていったのを見た。

 透瑠は冗談で「アレが翔の相手かも」と言ったが、もしアレが何か関係のある人間だとしたら、翔の私生活はいったいどうなっているのか。

 きっとそんな心配を純が思い描いているのだろうと想像すると、透瑠は純の方がよっぽど心配になってきていた。


透瑠
「翔、出てこないねぇ」


「・・・うん」

透瑠
「あんまり心配ばっかしてたらハゲるよ」


「ハゲへん」

透瑠
「そんな事言って、ハゲたらもう一緒に歩かないからね」


「ええよ。そしたら透瑠背負わんでも良くなんねやろ?」

透瑠
「んー・・・それは困るなー」


「じゃあハゲたら植えたってや」

透瑠
「あははっ、じゃあそうする〜」



 いったいどのくらいの時間そうして待っていただろうか。突然周辺が騒がしくなった。

 再びひょっこりと路地裏から顔を出すと、先ほどのピアスだらけの男がカラオケ店から出てくるところだった。

 何事かと思うほどに苛立った様子のその男が、手を引いて連れて来たのは、二人が待ちわびた親友。

 ブロンドの髪を乱しながらピアス男に何かを訴えた辺りで、待機させてあったらしいタクシーに彼は詰め込まれた。

 目の前で起きた出来事に現実味が無さ過ぎた二人は、その一部始終を呆然と見送っていることしかできず、待ち人を連れ去られ、一瞬で途方に暮れてしまった。



「あぁぁぁあぁアカン!拉致られてしもた!」


 ようやく我に返った純が目の前で取り乱して、今にも泣きそうだ。

 透瑠はふぅっと一息吐くと、徐に路地裏から出て別のタクシーを止めた。そして純の方を見遣ると、何時になく落ち着いた声で言った。


透瑠
「泣くの?乗るの?」


「・・・へ?」

透瑠
「ほらボッとしてたら見失っちゃうでしょ。追いかけるよ」


「・・・う、うん」


 まるで大した事では無いとでも言うように毅然とした透瑠のその声に、純は少し驚いて、今見た光景への不安も手伝ってか、ただそれに従うという動きしか取れなくなっている。

 そんな情けない顔の純を先にシートへ押し込むと透瑠は、財布の中身を運転手にチラつかせた。


透瑠
「文句ある?無いならさっさと前のタクシー追いかけてねオジサン」


 いつも通りの完璧スマイルだが、なんだか今は迫力が違う。

 透瑠の迫力と財布の中身に運転手は怪訝な表情を見せたが、とにかく車は走り出した。

 何時になく男らしい表情の透瑠と、それに驚いている純を乗せて。






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