翔くんの秘密?(TrinityA参照)
2012/01/05





「しっかし翔も大変やな。近所のチビすけの子守りまでせなアカンとは」

透瑠
「一人は実の妹だけどね。あ、違う。腹違いか」


「腹違い?」

透瑠
「うん。ママが違うの」


「・・・お前。そんな情報サラッと言うたらアカンやん」


 広い広い大豪邸の一室。極端に広い室内に極端に家具の少ない翔の部屋。その片隅に置かれたベッドには、額に熱さましのシートを貼った透瑠。傍らには純が看病でもするかのように座っている。

 おチビ三人衆がお泊りに来ている《部屋の主》は、なにやら忙しそうにその世話に追われているらしい。

 本当は、ベースを弾けるようになりたいと言う純のために、愛機・サンダーバードを貸してやりながら練習するはずだったのだが、まったくそれどころではなくなっているのだ。

 そんな翔の居ない室内で、透瑠による暴露話が今、始まろうとしている。


透瑠
「知らない人の方が少ないよ。まぁ純なら翔も怒んないでしょ」


「つーか、せっかくやし。ちょっとした疑問なんやけど」

透瑠
「うん?」


「実の妹と一緒に暮らしてないのはなんでなん?つーか親も此処には居てないみたいやし。色々おかしいやん」

透瑠
「話すと長いよ?」


「ええよ」

透瑠
「香澄も、最初は翔と一緒に暮らしてたんだけど、事情があって今は別々なの」


「・・・うん」

透瑠
「この家に大人が一人もいないのは俺も不思議。つい2年くらい前までは翔のお祖父ちゃんも一緒に暮らしてたはずなんだけどね」


「・・・祖父ちゃんて、親は?」

透瑠
「翔のパパさんは何やってる人なのかよく知らないんだよね。どこかには居るはずなんだけど帰って来ないし。前に見たときはまだ俺も小さかったからなー・・・」


「・・・」

透瑠
「ママさんに関しては、香澄のママしか見た事無いよ。それも香澄が産まれてすぐ居なくなっちゃったからよくわからないし」


「・・・どういう家庭環境やねん」

透瑠
「変だよねー」


「そのママさんは翔のお母んとはちゃうん?」

透瑠
「違うらしいよ」


「・・・」

透瑠
「とにかく、その、香澄を産んだママさんが居なくなってからが大変だったんだよ」


「・・・祖父ちゃん居ったんやろ?」

透瑠
「それがさぁ。翔のお祖父ちゃんも忙しい人でー。ほとんど家に居ないくせに、家政婦すら雇わないからさぁ。香澄の子育て?世話?ってのは全部が翔の仕事になっちゃって」


「え・・・そん時て俺ら幾つやった?」

透瑠
「んー・・・小学校入ったくらい?」


「うわ・・・そんな時代、俺なんかアホみたいに遊びまくっとったで」

透瑠
「いいね。そうか。普通の家の子は遊びまくれたんだ」


「・・・」

透瑠
「俺もね?ピアノのレッスンとかの予定でぎゅうぎゅう詰めだったけど、翔が心配で様子見に来たりしてたんだよね」


「・・・お前も大変やったんやな」

透瑠
「まぁそれはいいじゃない今は」


「・・・」

透瑠
「そんなこんなで、たかだか6歳児に子育てなんか出来ないからさ。翔のお祖父ちゃんが、お向かいの家に香澄を預けたんだ」


「・・・」

透瑠
「でも兄妹だってことも、本当の家は此処だってことも教えてあるから、時々こうやって泊りに来るようになったみたいだよ」


「・・・そうか。ホンマ大変やったんやなアイツ」

透瑠
「うふふ。今じゃあんなクールぶってるけど、あの頃の翔は可愛かったんだよー?」


「?」

透瑠
「香澄のオムツ替えとかミルクの度に、どうしていいかわからなくてメソメソ泣いてさぁ。ふふふ」


「・・・」

透瑠
「香澄が泣く度に『透瑠〜!どうしよ〜!』とか言って、泣きながら電話してきたりねー。くくくっ」


「・・・」


「・・・」


「!!」

透瑠
「あ」


「俺の過去を暴露して、そんなに楽しいか透瑠?」

透瑠
「うん♪」


「!?」


「あっそ・・・まぁいいや。怒るのもめんどくせーし」

透瑠
「今の翔からは想像できない可愛らしさなのに、誰も知らないなんてもったいないよねー」


「・・・そうは言うても、笑える話とちゃうけどな」


「笑ってくれた方が気が楽だけどな」


 そう言って、大したことじゃないとでも言うような顔で再び洗濯物を片づけ始めるブロンドの老け顔中学生。楽しげにそれを眺める透瑠を横目に、純は複雑な心境を隠せずにいた。






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