ミサンガの秘密(Trinity@参照)
2011/12/02



透瑠
「彼女。どんな子?」


「・・・へ?」


 外れてしまったミサンガを結び直しながら、透瑠は尋ねた。純は驚いて目を白黒させる。

 ここはとある中学の屋上。屋上と言えば立ち入りを禁じられているのが普通だが、それを無視して憩いの場と化すのもまたよくある光景である。

 そんな学校の禁断区域に派手な髪の男子が3人、青空の下で何をしているのかなどこの際どうでもいいだろう。

 問題なのは、透瑠が何故、純の彼女の存在に気付いたのか・・・ということだ。

 純と透瑠は出会って間もない。生まれ故郷に置いてきた自分の彼女の話など、いったいどのキッカケで話したというのか。いや、話していないはず。だったら何故?自然に傾く純の頭。不思議で仕方がないのだ。

 綺麗に編まれた願いのこもったブレスレットを、元の位置に結びなおしている銀髪少年。絶えることのない笑顔は作り物のように完成されている。



「・・・彼女のこと言うたっけ?」


 不思議に耐えかねて純は尋ねた。帰ってきた台詞は、あまりにも簡単な答え。


透瑠
「ううん、聞いてないよ。ほら、ミサンガの内側に名前が刺繍してあるんだもん」


「・・・」


 元通りに結ばれた左腕のミサンガ。内側をめくってみれば、透瑠の言う通り、可愛い彼女の名前がある。



「・・・あぁ」


 ようやく納得が行って声を漏らすと、クスクスと笑う目の前の同級生。



「・・・なに?」

透瑠
「ん?いや、可愛いなぁと思って。ふふ」


「は?」

透瑠
「だってさ?そんな隠すみたいに名前入れたりして『私も連れて行って』って言ってるみたいじゃない?」


「・・・」


 途端に赤面の純。なるほど透瑠の言葉通りならば、こんな可愛い悪戯は無い。


透瑠
「彼女からのプレゼントだもん、大事だよねー。必死になって探すわけだ」


「・・・」


 転校するその日、彼女本人が彼の左腕に結んだミサンガ。また一緒に居られる日を願って編んでくれた宝物。彼女がどんな想いで自分を見送ってくれたのかと思うと胸が熱くなる。

 もはや何も言えずに赤い顔のまま俯いた初心な純は、とにかく左腕のソレから意識が逸らせなくなってしまったらしい。透瑠の冷やかしに怒ることも忘れているようだ。


透瑠
「茉莉ちゃんねー・・・ねえねえどんな子?」


「・・・勝手に名前呼ぶなや」

透瑠
「髪は?長い?短い?肌は白い?性格は?ねえねえ詳しく教えてよー」


「なんでそこまで教えなアカンねん。関係無いやん」

透瑠
「えー?教えてくれたっていいじゃーん!」


「教えない方がいいぞ」


「ん?」


 突然話に入ってきたのは国籍不詳の同級生。そのふてぶてしい態度が気に食わない純は「なんや」と冷たく言葉を返す。



「そんな詳細なデータは教えない方がいいって言ったの。もしソイツがお前の彼女を見つけるようなことがあったら、間違いなく盗られるぞ」


「・・・」

透瑠
「ちょっとー!情報聞く前にネタばらしすんのやめてくんなーい?」


「見境無さすぎだろ。だから友達いねーんだよお前」


「あ・・・あぶなっ・・・!!」

透瑠
「じゃあじゃあ盗らないって約束するから、タメか年上かだけでも教えて?」


「!」


 キュルリン☆と音がしそうな表情で迫られて、純は危うくほだされ掛けた。危ない危ない、これがコイツの武器か。

 なんとか話題を逸らさなければ・・・。まったく面倒なタイプと知り合ってしまったものだ。

 ・・・そういえば、保健室で見たあの秘密の光景は、やはり自分の中に留めておくべきだろうか?まるで男っぽさを感じない目の前の人間とアレが全く結びつかないから困る。

 迫ってくる問に答えるよりも、目にしてしまった一連の光景への疑問が消えない。

 とにかく危ない奴だという事は理解して、尋問をかわし続ける純だった。







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