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「ふ・・・ふふ・・・」 夕暮れの、誰も居なくなった部室に響く不敵な笑い声。 一人の女子生徒が手にしているのは、何やら可愛らしくフリルがあしらわれたワンピース。 何着も纏めて発注されたそれらは、着る人それぞれに合わせてサイズも様々。その中でも飛びぬけて目立つ長身サイズのメイド服が、今、不敵に笑う彼女の手に収まっている。 「・・・今度の相手は誰?・・・どうしてアンタばっかり」 恨みの籠った台詞はそのメイド服を着る筈の相手に向けられたもの。彼女は手にしたそれをギュッと握りしめ、また憎々しげに呟いた。 「絶対に突き止めて邪魔してやる・・・」 低く響いた声の後、ザクザクと音をたててメイド服は切り刻まれてゆく。 ワザと目に付くように、バサバサと荒々しく捨てられたゴミ箱の中、形を失ったワンピースが夕日に照らされていた。 これは学園祭の数日前の出来事。 祭の準備は滞りなく進んでいた。 この女子生徒の行動を除いては・・・。 香澄 「なにこれ!?」 翌日。部室に響いた悲鳴のような声。 香澄の手には切り刻まれたメイド服。その傍らでは由紀が涙を堪えているようだ。 綾 「・・・なんだよコレ、誰がこんな」 慎一 「・・・ここに無断で入れるのは部員しかいないよ」 綾 「・・・」 香澄 「なんで!?涼ちゃんとは別れたのになんでまだ嫌がらせされんの!?」 蓮 「一舞が幸せそうなのが気に入らない輩がいるんだろうな。何故かはわからんが」 香澄 「つーか犯人って蓮くんじゃないよね!?」 蓮 「俺はこんなくだらないマネなどしない。人を見て物を言うんだな。馬鹿が」 香澄 「じゃあ誰なのか見極めてよ!」 蓮 「・・・そうしよう」 慎一 「とにかくこの事は伏せたままにして、新しい衣装の発注とかしない?」 綾 「無理だよ。これだってサイズ合わせて発注してるし、日数も在庫とかも無いし・・・」 香澄 「そうだよね・・・やっと見つけたんだったね・・・」 蓮 「・・・」 慎一 「でもこれを一舞が知ったら・・・」 一舞 「あたしが何?」 (!!!!) 皆、話に夢中で気づいていなかった。いつの間にか彼らの背後には一舞が立っていて、何事かと不思議そうに、ごみ箱を囲む彼らの中心を確かめようとしている。 一舞 「ねえねえ、どうしたの?」 慎一 「・・・」 綾 「・・・」 香澄 「え・・・っと」 蓮 「・・・お前の衣装に悪戯をした奴がいる」 慎一 「せっ・・・先輩!」 一舞 「・・・」 蓮 「隠しても仕方が無いだろう。代用品も無いんだ、どうしようも無い」 慎一 「・・・」 一舞 「・・・ふーん。で?」 そう言って、まるでどうという事は無いと言った表情で手を出し、切り刻まれているそれを寄越せと促す。 香澄 「・・・はい」 香澄はこわごわと一舞に手渡すと、悔しさで唇を噛んだ。 一舞 「・・・ふーん」 由紀 「・・・一舞ちゃん」 涙を拭いながら、心配そうに見つめる由紀に気づき、一舞はニッコリ微笑んだ。 一舞 「まったく。暇な人がいるもんだよねー」 蓮 「・・・」 一舞 「大丈夫だよ。メイドがダメならホストにしてもらうからー、あははっ」 慎一 「え、えー・・・?それは、どうかな」 蓮 「そういうことなら、俺も手伝おう」 一舞 「えっ?マジで?蓮ちゃんがホスト?」 蓮 「・・・あくまでサポートだ」 (危険が無いとも限らないからな) 慎一 「・・・」 (俺が頼んだ時はあんなに嫌がってたくせに・・) 綾 「・・・」 (どんだけ一舞が好きなんだよ・・・) 香澄 「・・・」 (サービスしてる姿が想像できない・・・つーか、お客追い返したりしないよね・・?) 由紀 「!!!」 それぞれの困惑はさて置き、犯人はいったい誰なのか。 相変わらず負けない一舞の笑顔に、彼らの不安は癒された。 怒りの矛先だけは見失わずに・・・。 |