ハラハラ学園祭(2)裏指名篇
2011/10/15




「なんでこんな格好してんの!」

 簡易ホストグラブと化した部室内に、突如響いた声。

 蓮による集客妨害を防ぐべく出迎えを手伝っていた慎一は、その声に驚き振り返った。

慎一
「あ、一舞だ」

 慎一のみならず、蓮や涼、照や祐弥も同じタイミングで見やったそこには、他の部員達と同様にホスト姿に身を包んだ一舞の姿があった。

 いつもの落ち着きが消えたような翔の雰囲気。その異変の原因はすぐに見てとれた。

 彼女も同じバンド部員なのだから、参加することに対して特に問題は無いのだが。ホストだからと皆が一様に同じ出で立ちの中、彼女も漏れなくそこに合わせてしまっていることが問題なのだ。


一舞
「みんな開けてるのにー!」


「どこまで天然だ!性別の違いくらい考えろよ!」


 慌てて彼女の胸元を隠しながら声を荒げるいつもはクールな先輩と、隠された絶景。

 健全な10代の雄たちは、もう少し見守っていたかったと、この時ばかりは翔を若干恨んだことだろう。



「アッハッハッハッ、一舞は可愛いなぁ」


 1人楽しそうな部外者は置いといて。さて夫婦喧嘩が始まってしまったからどうしよう?



「つーか女子は別のことやるって言ってたのに、なんでお前がここに居んだ!」

一舞
「だって普通の女子サイズの衣装しか無いんだもん!あたしが同じことできるわけ無いじゃん!」


「だからってホストになんかなれるか!つーか胸開けりゃいいってもんじゃねーだろバカタレ!」

一舞
「なれるかなれないかは翔が決めることじゃないでしょー!?つーか胸開けたくらいなにさ!べつに全見せしてるわけじゃないもんいいじゃん!」


「全裸よりエロいわ!ふざけんな!」


 一舞は楽しいイベントに参加したかっただけ。翔もそんなことはわかっているのだが、自分の彼女の柔肌が人目に触れるのは我慢ならない。

 とはいえ、大切なことを忘れている。

 一部の人間しか知らない二人の関係が、これをキッカケにまた広まってしまいそうだ。


一舞
「もういいよ!どーせあたしみたいな規格外の女は可愛い衣装も着れないし、みんなと一緒に楽しむことも出来ないんでしょ!?」


「べつにそこまで言ってないだろ!」

一舞
「同じことじゃん!わかったよ!わかりました!もういい!ホストなんかやめた!広夢くんと一緒に呼び込みしてくる!」


「なっ!?ちょっと待て!せめて着替えろよ!」

一舞
「うっさい!白スーツでヤル気満々な人はしっかり接客に励んでなよ!いーっぱい客呼んでやるから!」


 バターン!!と大きな音と共に閉じられた頑丈な防音扉。勢いでドアノブが取れてしまったところを見ると、彼女はかなりご立腹なようだ。

 可愛い衣装を着られないことが余程ショックだったのか、ホストにすらなれないことが腹立たしいのか、とにかく翔に対してワガママを言っていることに変わりはない。

 残された白スーツの彼は、大きなため息と共にソファーに腰を落とした。



慎一
「あの・・・二人って?」


「うん・・・そっとしといてやって?」

慎一
「・・・はぁ」


 部員たちが恐れる前部長でさえ、リスペクトして止まない伝説の男・翔。

 そんな偉大な先輩さえ頭を抱える自由さと気の強さはいったい誰が止められるのか。


 数分後。

 一舞の宣言通りにどんどん客足の増えていくホストグラブ。

 白スーツを押し潰す勢いで群がる女性客。

 翔は悟った。

 一舞を怒らせてはいけないと。



「はははっ、翔は悪くないよ。ちょっと一舞が自由すぎるだけさ」


「・・・ヘルプどうも。色んな意味で」


「でもアレだな。翔には遠慮しないところがまた可愛いよな?一舞ってさ。ふふっ」


「・・・そっすね」


 可愛い彼女のためだ。時には負けてやるのもいいかもしれない。

 ノンアルコールの液体を口に含みながら、翔の顔には自然に笑みが零れていた。








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