どうか禿げませんように・・・(side*APHRODISIAC)
2011/09/09




「っあーーーー!!」


「・・・いやいやいやいや、ちょっとは落ち着いたらどや」

 早朝のレコーディングスタジオに響く、切羽詰まった叫び声。

 夏の別荘合宿以来、学はイライラしている。

 何故かってそれは、可愛い可愛い姪っ子と、よりにもよってあの翔が・・・歩く18禁と言われた(?)後輩が、付き合い始めてしまったからだ。

 おかげで彼の楽曲制作は難航を極めている。

 先ほどから叫び声を上げつつ、思うようなサウンドを生み出せない自分にまでイラついているのだ。

 レコーディング合宿という名目を利用して地元から離れたホテルを用意したのも、後輩と姪っ子の距離をなるべく縮めたくない学が、あらゆる伝手を駆使して根回しした賜物と言えよう。

 しかし、短期間で準備したこの作戦。距離的にはいつでも地元に帰れるレベル。彼の不安はなかなか消えない。



「苦肉の策やな。こんなんしても意味無いやろうけど」


「っせーわモミアゲ。一舞の貞操を守るにはこれしかねーだろが」


「そんなん言うたかて、本人同士の問題やねんからほっといたったらええのに。結局アレやで?時間稼ぎくらいの効果しかあらへんで?」


「いや、遠距離に耐えかねて別れるという期待をだな・・・」


「ほー・・・しかし、この企みがバレたら、学さんずっと一舞に恨まれるやろなぁ」


「いいんだ・・・恨まれるくらい・・・一舞が無垢なままでいてくれるなら・・・」


「いや、常識で考えて無理やろ」


「無理じゃねーよ」


「無理やて。何時の時代や思てんねん。今のJK、めっちゃ貞操観念うっすいねんで?」


「そんなもんお前の思い込みだろ。他はどうか知らねーが一舞に限ってそれは無いぞ」


「一舞かてもう結婚できる年なんねんから、ええ加減に腹括らんと・・・」


「うっせー!黙れ!先輩に逆らうんじゃねー!!」


「わっ!?危なっ!横暴やんか!俺は事実を言うてるだけやのに!」

 見事なちゃぶ台返しを炸裂させた偉大な先輩に負けじと文句を言い、散らかった書類たちをかき集める優しい後輩。


「なに朝っぱらから騒いでんだ?」


「おーおはようさん。お前の噂しとってんけど、聞こえちゃった?」


「は?」


「おい!翔!テメー!さっさと歌入れしやがれ!」


「・・・・」


「がっくん?その前におはようは?」


「うるっせーっつんだよデカブツ!テメーもダラダラすんじゃねー!」


「あ〜ぁ・・・完全にキレてもた」


「めんどくせーな・・・」


「仕方ない・・・俺が宥めておくよ」


「頼みますよ。あんなテンションの人と一日中関わるなんて嫌ですからね」


「つーかあのオッサン、ここが借りてる場所やて忘れてるんとちゃうか・・・備品壊したら弁償やぞ」


「つーかお前のせいなんじゃねーのかよ?」


「いや、どっちか言うたらお前のせいやわ」


「はぁ?勘弁しろよ、俺が何したんだよ?」


「・・・学さんの大事な姪っ子を、キズモノにしようとしてるやん」


「キズモノ?・・・は?」


 まったく自覚の無い《歩く18禁》と呼ばれた男。

 モミアゲの後輩は、ただただ思った。

 どうか学さんが禿げませんように・・・

(まぁ禿げるやろうけど・・・)











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