放置するつもりじゃないんです(side*APHRODISIAC)
2011/09/07



 とあるホテルの一室。

 ギィ・・・と鈍い音を響かせて、浴室のドアが開いた。



「風呂空いたよ・・・って、何してんの?」


「!・・・あぁ、なんだ・・・ビビった・・・」

 彰が浴室から出ると、ベッドに寝転び、ケータイを見つめる翔の姿。

 声をかけた途端に不自然なほど驚く後輩を不思議に思いながらも、いつも通りの冗談めいた笑顔で隣に腰かけた。


「何?襲ってほしかった?」


「命が惜しくないならご自由に」


「もー、だから翔はカラカイ甲斐が無いよねー。ふはは」


「とか言って、充分楽しそうに見えるのは気のせいですか?」


「そう?くくく」


 レコーディングのため合宿を始めた《APHRODISIAC》

 メンバーにはスタジオ近くにあるホテルが用意され、仕事に集中できるよう配慮された環境が整っている。

 用意された部屋は二部屋。

 一つは学と純が、そしてもう一つは彰と翔が、相部屋として割り当てられた。

 何故この割り当てなのかについては、彰の意思が大きく反映されたことは言うまでも無い。


「どうでもいいけど風呂入りな」


「・・・そっすね」


「なんなら一緒に入りたかった?」


「どう考えても狭いでしょ」


「あぁ、そっか。くふふ」


「どうあってもゲイ路線でいくのが楽しいんですか」


「あれ?翔は信じないの?」


「どっちでもいいです」


「なるほど、どっちの彰さんでも好きってことだね」


「彰さんの音は、好きっすね」


「引っかからないねー。そこがまたイイよね」


「・・・そりゃどうも」

 そう言うと翔は、彰の目の前にも関わらず服を脱ぎ捨てる。


「お前は遠慮が無いな」


「男同士で遠慮してもしょうがないじゃん」


「ま。そうだね。体自慢も甚だしいけど。くふふ」


「じゃ、風呂いってきます」


「はいはい」

 初対面の時の事を忘れてしまったのだろうか。翔の警戒心はまるで無いに等しい。

 いくらなんでももう少し隠すとかすればいいものを、素っ裸で目の前を横切られては、どう突っ込んでいいものかわからない。

 自分のビジュアルに対し、清々しい程の自信を持っているその後輩のことをよく知っているはずだった彰も、ただ笑うしかなかった。

 翔が脱ぎ捨てた衣服を拾い集め、丁寧に畳むと、冷蔵庫からビールを取り出す。

 浴室から聞こえる水音を聞きながら、ビール片手に窓際に佇むバスローブ姿の大男。

 そういえばさっきの翔は何だったんだ?と、数分前の挙動不審な後輩を思い出す。

 ふと翔のベッドを見やると、先ほどまで彼の手に握られていた携帯電話がそのままだ。

 二つ折りのよくあるタイプのそれを間近で見つめる。

 開かれたままで、しかしディスプレイは真っ暗だったが、なんのキッカケか、突然画面が表示されたかと思うと、作りかけのメールが現れた。


「・・・ほほう」

 作りかけ・・・とは言っても、送り先が決まっただけの状態で止まっているのがなんとも可笑しい。


「可愛いとこあるんじゃねーの。くくく」

 どうやら彼女にメールしようとしていたらしいが、結局のところ、何を書いていいのか決まらなかったようだ。

 彰はくっくと肩を揺らし、再び窓際へ移動した。

 喉の奥に泡立つ液体を流し込み、次はどうカラかってやろうかと策略を廻らす。

 可愛い後輩は、ゆっくり入浴を楽しんでいる。

 今度は恋愛相談にでも乗ってやろうか。

 窓に映る企みの笑顔は、分っていても誰にも止められないのだった・・・。










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