鍛えられた訳A |
弥生ちゃんの看病と、代わりに家事をするために、一晩だけ五十嵐家に泊まることになった。 すずちゃんをお風呂に入れて寝かしつけたあと、明日の朝ご飯の下準備をしようと キッチンに向かうと・・・リビングで1人、ニヤニヤしながらアルバムを見ている学ちゃんを見つけた。 一舞 「気持ち悪いんだけど」 学 「お!なんだ、いつから居た!?」 一舞 「今来たところ。すずちゃん寝たよ」 学 「おお…そうか」 一舞 「…それ、いつの?」 学 「ん?…あぁ」 あたしの問い掛けに軽く微笑んで、学ちゃんの右手が「来い来い…」と、手招きをする。 あたしは素直に近づき、アルバムを覗いた。 一舞 「…わ…ちっさ」 そこには、真っ赤な髪の赤ちゃんが写った写真が並んでいた。 一舞 「これ…あたしだね」学 「かぁわいいだろ?」 一舞 「・・・・・」 学ちゃんの口から《かわいい》なんて言葉が出るのは、なんだかとっても不自然だ。 一舞 「あたしコレ…何歳くらい?」 学 「…確か、3歳くらいじゃね?」 一舞 「…ふぅん」 まったく記憶に無い自分の姿はとても新鮮に目に映る。 一舞 「てか。どうして急にこんなの見てるの?」 学 「…別に。なんとなくだ。つーかこの頃はまだ弥生と付き合い始める以前の問題だったからなーと思ってよ」 一舞 「…そうなの?」 学 「俺はアイツを知ってたけど…弥生は別の男と付き合ってたからな」 一舞 「……へぇ」 知らなかった。 なんとなくだけど、弥生ちゃんと学ちゃんは、あたしが生まれるずっと前から一緒に居るような雰囲気を勝手に感じてたから。 弥生ちゃんの過去の恋人なんて想像もしてなかったよ…。 学 「ほら…ここからは俺が写ってるだろ?」 パラパラと数枚のページをめくると、だんだんと小さなあたしが成長して、学ちゃんに抱かれた写真が現れる。 一舞 「あ、ホントだ…学ちゃん、若っ」 学 「今でも若い」 一舞 「はいはい…あ!」 学 「ん?」 一舞 「翔だ…」 あたしが写っている写真とは別に。制服を着て、学校らしき場所で学ちゃんと一緒に写っている翔の姿を見つけた。 学 「…あぁ、この頃な。コイツらもこうやって見るとガキくせぇな」 一舞 「…可愛いね…翔も」 学 「……これ、翔は中学くらいだ」 一舞 「…うん…なんとなくわかる」 ほんの少しあどけない感じの中学生の翔が、カッコつけて写真に収まっているのがなんだか可愛くて、少しだけ頬が緩む。 すると、学ちゃんがムッとした表情で、勝手にページを進めてしまった。 現れたページには、頬を腫らした自分と、顔に引っ掻き傷を作った学ちゃんが、まるで睨み合うように写っていた。 学 「懐かしいだろ」 一舞 「…覚えてるよ〜。つーか忘れてたまるか」 それはあたしが街にまだ不慣れだった頃。 道に迷って帰りが遅くなった時に、弥生ちゃんと一緒にあたしを探していた学ちゃんが、物凄い剣幕で怒って理由も聞かずにあたしを殴るから。 あたしもムカついて本気で反撃した。そんな思い出の証拠写真だ。 学 「ほんっと昔から気が強くてなぁお前は。姉ちゃんとも弥生ともよく似てるわ」 一舞 「それくらいじゃないと、学ちゃんの家族になるのは無理だと思うけど」 学 「そうか?…俺こんなに優しいのに?」 一舞 「はいはい。そうっすねー」 学 「流すな。…つーかよ…それって、すず も、こんな感じになるってことかな…」 一舞 「…素質はあるよね」 学 「……………」 一舞 「…穏やかに育てば、穏やかな子になるんじゃない?」 学 「………穏やかに?」 一舞 「…まぁ…現状はかなり難しいけど」 学 「……………」 この後 学ちゃんは、閉じたアルバムと向き合いながら、朝方までうんうんと唸っていた。 |