それから影山くんは度々足の具合を気にかけてくれた。私は話すたびに緊張しっぱなしだったけど、会話が増えたのは純粋に嬉しい。日向くんとも仲良くなれたお陰でバレー部の話も聞けるし、あの日のハプニングに感謝するしかない。
ただ、影山くんは私の足の怪我を気にしているのであって、治れば話すこともなくなってしまうのでは、なんて不安もついて回った。怪我がずっと治らなきゃいいのにな、そんな考えも口に出せないまま、心の中に積もっていく。


そうしてとうとう足の捻挫も完治しそうになった頃、世間ではもうインターハイ予選が始まるといった時期であった。学校全体がそわそわしていて、それは教室にいるときの影山くんも同じようで。帰宅部である私も、その雰囲気にあてられてなんだか落ち着かなかった。この活気に満ちた学校の雰囲気は嫌いじゃない。帰宅部らしく直帰するのも味気ないので、青春の一ページであろうその雰囲気を味わうために放課後少し残ることにした。まあ暇だし課題でもやろう。






「うわあ、もう真っ暗だ」


下駄箱で靴を履き変えながら溢した独り言は無駄に天井に響いてちょっと恥ずかしい。課題をやっているうちにいつの間にか眠ってしまっていて、帰ろうと思ったらもう外は真っ暗。枕にしていた教科書の跡がほんのり残る頬を擦りながら、暗い校舎を出た。
なるべく街灯の多い道を帰ろうと坂ノ下商店前の道を歩いていると、前方に真っ黒な集団がいてぎょっとする。まさかおばけ……なんてことはなく、黒いジャージを着たどこかの部活の集団のようだった。運動部と帰り道で鉢合わせるなんて私どんだけ寝てたんだろう…。その集団に気付かれないうちに横をすり抜けようとしたところ、視界でちらついたオレンジ色がこちらを見た気がした。


「あっ!穂波さん!!」

「ひゃっ、は、はい!」

「そんな驚かなくても……びっくりさせてごめん!」


びくびくしながら振り向くと、視界に入ったオレンジ色はやっぱり日向くんだった。この集団はバレー部だったのか。今帰りー?なんて人懐っこく聞いてくる日向くんは癒しだが、周りの人たちの視線が一気にこちらに集まってきてぎくりとした。さすがバレー部、視線がほぼ上からで怖い。
視線におどおどしながら日向くんの話に相槌を打っていると、ずいっと背の高い影が近づいてきて思わず後ずさってしまった。なんで逃げるんだよ、と文句を言いながらまた一歩、こちらへ詰め寄ってきたのは影山くんで。そうですよねバレー部だから影山くんもいますよね。


「お前いつもこんな遅い時間に帰ってんのか?」

「え?いや今日はたまたま…教室に残っててですね」


うわーバレー部のジャージかっこいいな!突然の質問になんとか答えつつ珍しいジャージ姿の影山くんをじろじろ観察していると、影山くんはふと思案するような仕草を見せた。早くこの場から去りたくてじゃあまた明日ね、と離れようとしたところ、影山くんの大きな手が私の腕を掴んで引き留める。バレー部の人たちはもう各々の帰路へとついたのか、坂ノ下商店前にいるのは私たちだけになっていた。えっえっと焦る私の目をまっすぐ見つめて、影山くんは緊張したように口を開く。


「もう遅いし、送ってく」

「………………は、はい」


どうしてとか、遠慮しますとか、色んな言葉が浮かぶ前に答えは出ていた。大人しく影山くんの後ろについていく私の心臓はばっくんばっくんとすごい音をたてていて、今日無事に家まで帰れるか心配だ。



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