作戦会議だと意気込んでいた私はなぜか学校の保健室にいる。おかしい。しかも目の前にはちょっと不機嫌そうな影山くんがいて。これは夢かしらと何度もほっぺたを軽く抓ってみたけどすごく痛かった。夢じゃない。


▽▽▽


それは遡ること数十分。前述した通り私は家に帰ろうと廊下を歩いていて、廊下から響く影山くんの日向ボゲェ!!と言う怒号を聞くとついふらりとその声の方へ進んでしまったのであった。今日は男女別の体育や実習のある授業ばかりで、後ろから背中さえも見れなかったから、帰る前に一目見れたらラッキーだななんて思ってただけだったのに。さて彼はどこだと声を頼りに角を曲がった、瞬間、同じように角の向こうから走ってきた誰かにぶつかってしまった。突然のことで尻もちをついた私がごめんなさいと声をかける前に、私がぶつかったらしい人物がすごい勢いで謝罪の言葉を並べていた。


「あーーーっ!!ご、ごめんなさいごめんなさい!怪我ないですか!!?」

「あ、う、うん……ってあれ、」


すごい勢いで謝ってくるその人の顔をやっと見て私は首を傾げる。どこかで見たことあるような。それは向こうも同じようで、何かを思い出すように首を傾げていた。ああそうだ確か、中学で一度だけ同じクラスになったことがある。どんくさい私にも分け隔てなく接してくれて、にししと笑う男の子らしい笑顔が眩しいーーー「おい日向!!」あっそうそう日向くん。
と、名前を思い出したところで、廊下の角から顔を覗かせたのが影山くんで心底びっくりした。あと一歩で叫び声が出るくらい。すんでのところで飲み込んだ自分を誉めたい。影山くんが声を荒げていた相手は彼だったのか、確かにさっき日向と叫んでいた気がする。


「うわっ影山もう追いついたのかよ!」

「うるせーな、それよりお前ら何やってんだ」

「え?あ、ごめん立てる!?えーっと、穂波さん!だよね?」

「あ、うん。穂波です。ありがとう」


影山くんに言われて気付いたけど、私は尻もちをついてぺたりと床に座り込んだままだった。手を伸ばしてくれた日向くんの手を握って、お礼を言いながら立ち上がる。埃で靴下が少し白くなっていたけど、それより床に足をついた時足首がズキリと痛んでどきっとした。もしかしたら転んだ拍子に足を捻ってしまったかもしれない。でもそんなに痛くないし、眉を下げて何度も謝る日向くんにそれを伝えるのは悪い気がした。大丈夫だよ、と日向くんに笑顔で答えて同じ高校だったんだね、なんて思い出話をしていると、ずっと蚊帳の外にいた影山くんが日向くんの首根っこをぎゅんっと掴んで部活、と低い声で呟いた。


「やべっ部活遅れる!じゃーね穂波さん!」

「あ、うん。ぶつかっちゃってごめんね」


日向くんも怪我がないか聞きそびれてしまった…あんなに元気に走ってるから大丈夫だと思うけど。またなーと手を振りながら遠ざかっていく日向くんを見送りながら、影山くんも部活に行っちゃうなあと惜しんでいると、未だに彼は私の隣に佇んでいて思わずビクッと肩が跳ねた。今まで遠くから見てるだけだったから分からなかったけど、隣に並ばれると身長差も相まって威圧感がやばい。怖い。
あの、部活、行かないんですか…?と謎の敬語で恐る恐る話しかけてみると、足、とだけ返事をされて余計にこんがらがった。足?


「さっき、挫いただろ」

「えっ分かるの!?」

「?だって今右足庇ってたし、保健室行くぞ」

「えっ、で、でも影山くん部活は?遅れちゃうよ?」


保健室くらい一人で行けるから、と何度言っても影山くんは放してくれなくて。後ろを振り向くことなく私の腕を掴んで保健室へとずんずん進んでいく。それでも歩く速さは足を庇う私のスピードに合わせてくれていて、影山くんって(見た目によらず)優しいんだ!なんて失礼なことを考えて一人感動していた。
そうこうしている間に保健室に着いてしまって、冒頭に至る。なんでこういう時に限って先生いないんだろう。夢じゃなかったけど、氷で冷やされた足首は後になってじんじん痛んでくるし、処置する間影山くんは何も喋らないしで、緊張と痛みで十年くらい寿命が縮んだ気がした。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -