影山くんと、初めて言葉を交わした。
内心緊張でてんやわんやだったけど、記念すべき初めての会話はさらりと終わってしまった。さんきゅ、とプリントを返してくれた影山くんはエナメルバックを背負ってさっさと部活に行ってしまったし。ひとり取り残された私は自分のプリントを眺めてしばらく動けなかったし。後から職員室くらい一緒に行けば良かった、という事実に気付いてひっそり落ち込んだ。


そのことを歩ちゃんに恐る恐る報告してみると、だんだん私の喜びレベルの低さに慣れたのか、普通に「話せて良かったねー!」と一緒に喜んでくれた。その勢いでまず顔見知りくらいにはなりなよ、という言葉も添えて。ちょっと言葉を交わしただけでしばらく浮ついていたけどそれから特に進展は無くて、結局また彼の背中を目で追う生活に戻ってしまった。


「まあそう上手くはいきませんよね…」

「千依ちゃんが奥手過ぎんのよ」

「いやあそれほどでも」

「言っとくけど褒めてないからねー」


そんな他愛ない会話をしつつも目は斜め右の影山くんの席を見ようとしてしまうんだから私のストーカーっぷりがやばい。一言でも会話したんだから何か進展があるのでは!?とか最近は無駄に緊張していたのでそろそろ気が抜ける頃なのだ。そう上手くはいかない、というのは自分に言い聞かせているところもある。いちいち一喜一憂していたら身がもたないから。


「あんまり期待しすぎるとつらいから今のままがいいよ多分…」

「でもさあ、いま頑張っとかないと千依ちゃんの性格じゃ一生後悔するね。あの時ああしてたらー!ってさ」

「うぅっ!そ、それは…嫌だ……」


きっとあの時ああしていたら、と未来の私が思っていたら高校時代に戻りたいと思うはず。今のうちになにかしなきゃ、ってのはよく分かるんだけど…。だったら何か行動に移しなさい、と笑いながらバシバシ私の背中を叩く歩ちゃんは、最近出来たらしい彼氏に会いに行くと言って先に帰ってしまった。さすが私の恋愛の師匠は格が違う……私も見習わないと。しかし行動に移すといってもいまいちピンとこなかったので、今日は帰って作戦会議だな、と一人気合いを入れ直した。



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