結局その日は漫画を読み切れず、残りの半端ない巻数を持ち帰って読むことを義務付けられた。なんか恋愛相談してからの歩ちゃん怖い。でも恋愛初心者である私に応援やらアドバイスしてくれてるんだから、なんだか私もちゃんとしなきゃいけない気がして頑張って読んだ。気持ちを切り替えると漫画の内容もすらすら頭に入ってきて、続きが気になり過ぎて寝不足になるくらい。案の定寝坊してぼやぼやした頭のまま読んだところまでの漫画を歩ちゃんに返すと、目の下にクマいるよーなんて言って笑われた。


「いやー漫画面白くて読むうちに止まんなくなっちゃって」

「でしょでしょー?ちゃんと参考にしてね?」

「いや、う、うん、あんな風に出来たらいいけど……」


漫画のヒロインみたいに男の子にアタック出来るのか、と言われたら確実に答えはNOだけど、あれくらい都合のいいハプニングが起きる世界ならもっと上手いこと行くんだろうなあ。ヒロインが道の角で男の子と偶然ぶつかって、なんてありきたりな展開をしていたのを思い出す。いやでもまだ私には早い…!とうんうん唸っていたら、授業がいつの間にか始まっていた。やばい数学のプリントやってない!


「昨日のプリントやってきただろうなー?やってない奴は追加でプリントやるから放課後残れよ」

「(えええぇ!!)」


歩ちゃんに写させてもらおうと思ったのに、漫画のことばかり考えていてすっかり忘れていた。他にもやってなかったらしいクラスメイトのブーイングと先生のたしなめる声を聞きながら、いつもならやってるのに何で今日に限って、なんて言い訳がましい独り言を落とした。先生にプリントをもらうときも穂波にしては珍しいな、なんて言われてダメージが増えた。もう夜更かしは止めよう…そう誓ってずーんと落ち込んでいた私だけど、影山くんもプリントを渡されているのを見てちょっと嬉しくなるんだから我ながら現金だなと思う。これが歩ちゃん曰く喜びのレベルが低いというやつか。私って本当ちょろい。


▽▽▽


プリントは一応復習している範囲だったので、案外すらすら解けた。さっさと職員室の先生に渡して帰ろうという考えも浮かんだけど、盗み見た影山くんはまだ終わってないみたいだから少し教室に残ってみることにする。影山くんは早く部活に行きたいのか、すごくそわそわしていた。本当にバレー好きなんだなあ。
解き終えた生徒たちが教室から出ていくのを眺めながら、私ものろのろと帰宅の準備をする。さあ帰ろうと鞄を肩にかけた頃には教室には誰もいなくて、席についているのは影山くんだけ。……まだプリントが解けないんだろうか、でも声をかけるのもな〜とチキンを発動してそそくさと教室を出ようとすると、あの、と背中に声をかけられた。この状況で声をかけてくる人なんて、彼しかいないはずで。ギギギと油の足りていないブリキのような重い動きで振り返る。その視線の先には、案の定こっちを見ている影山くんがいて。返事をするために開いた口の中はカラカラに渇いていた。


「は、はい」

「……あー、プリント、見してくんねーかな」

「………あっ、はい。ど、どうぞ」


一番最初の会話がプリントの貸し借りだなんて、一体誰が予想しただろうか。これは歩ちゃんに報告してもいいのかな。私のプリントとにらめっこしながら男の子らしい勢いのある文字がさらさらと紙の上に並んでいく。それを眺めながら、私は自然と手で胸を押さえていた。嬉しさと緊張でどくどくと跳ね回る心臓がうるさい。



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