高校に入学してから数週間後、方向音痴の私は校内で迷子になっていた。そして偶然迷い込んだ廊下で聞こえてきた、ボールの跳ねる音と、小気味よく鳴るシューズの音。その音につられて、何とはなしに目を向けた第二体育館。そこで忙しなく練習していたのはバレー部で、最初はああ部活をやってるんだなあなんてそっと覗いただけだったのに。少しだけ開け放たれた扉の隙間から見えた彼に、彼の瞳に、いつの間にか惹かれていたんだ。






その日、私が体育館で一目惚れをした彼は影山飛雄くんというらしい。同じクラスなのは知ってたし、背の高い人だなあとは思っていたけど。教室で自分の席から見る彼の後ろ姿と、体育館で嬉しそうにバレーボールに触れる姿は全然違うものに見えて、見かけるたびに目で追うようになってしまった。
私の一方的な好意でしかないけど、こっそり影山くんの背中を見るだけでも十分幸せ。と友達に話したところ、好きならアタックしなきゃ!と目をキラキラさせながら迫られた。高校で初めて友達になった歩ちゃんは、そういう話にめっぽう強い。恋愛初心者の私とは比べ物にならないくらい。


「いやいやいや、だって顔見知りでさえないし……フられて気まずくなるの怖いもん」

「え〜じゃあまずは知り合いにならなきゃだね」

「それが出来たら苦労しません〜…」


クラスメイトとはいえストイックな影山くんと、滅多に男子と会話をしない私では接点がなさすぎる。せめておはようって、挨拶くらい出来たらいいなとは思うけど、いきなり声をかけるのはハードル高い。絶対緊張して吃るし。そりゃあ何か一言でも影山くんと会話出来たら、それだけでも十分なんだけどなあ。
そう言って机に突っ伏す私を見て、千依ちゃんは欲がなさすぎる!と歩ちゃんは怒った。でも片想いするだけでもういっぱいいっぱいの私はそれ以上のことなんて考えられないんです。
今度参考になる少女漫画貸すね、なんて当事者より張り切っている歩ちゃんに曖昧な返事をしながら、机ですやすやと眠っている影山くんの背中をちらりと盗み見た。ぴょこんと跳ねた寝癖にさえ胸がきゅんとしてしまって顔がにやけそう。



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