ふ、と目が覚めて、真っ白な天井が視界に飛び込んでくる。次いで消毒液のツンとする匂いが鼻をくすぐって、ああここは保健室かとぼんやりした意識を覚醒させていった。のそのそと身体を起こすと保険医の先生にもう大丈夫?と聞かれ、出てきたのはううん、なんて曖昧な返事。泣きすぎて微熱が出てたから、仮病を使うこともなくベッドを使わせてもらえて助かったなあ。落ち着くとさっきまでのことが走馬灯みたいにぽんぽん浮かんできて、熱が上がるじゃないかってくらい頬がじりじり火照った。
なんかまだ、夢だったみたいな。泣き腫らしたせいで痛むまぶたに触れながら、夢じゃないよねと何度も思い出して確認した。


私の告白を聞いたあとも影山くんはしばらく固まっていて、その反応に玉砕を覚悟した私はせめて嫌いにならないで、と変なお願いまで口走っていた。今後このまま気まずくなって、疎遠になってしまうのだけはいやだ…!返事を求めて恐る恐る表情を伺うと、影山くんは今までで一番険しいしかめっ面をしていてすごく怖かった。びっくりしていつの間にか涙も引っ込んでしまうくらい。


「あ、あの……何か返事をください…」

「……何で」

「え?」

「何で先に言うんだよボゲ」

「……え」


意を決して口にした言葉に返ってきた返事の意味が一瞬分からなかった。先に、とは。え?としか言えない私に、影山くんはだんだん苛々しているらしかった。察してくれと言わんばかりに視線で訴えかけてくるけど、大変申し訳ないことに私の思考回路も今やろくな働きをしていない。じっとそのまま見つめあうこと数十秒。余裕が無さそうにガシガシと頭を掻いて、だから、と切り出した影山くんの言葉の続きが「俺も」だったことを、私は一生忘れないと思う。今度は私がフリーズする番だった。


意味を理解すると同時にまたぶわっと涙を流す私を、影山くんは今までに無いくらい優しい眼差しで見つめていて。もう私今なら死んでもいいと言ったら何でだよボゲェと怒られた。いつも通りのその暴言がなんだか嬉しくて、泣きながら口元がへらりと緩む。そしたら影山くんも笑顔を見せてくれて、心臓のあたりがキュンとした。バレーのことを考えてるときとはまた違う、自然で柔らかい笑顔。その笑顔を見てまた泣きそうになったのはここだけの話にしておきたい。


と、今日の回想を終えるといつの間にかベッドの横に影山くん本人がいて、驚いた私はぎゃっと変な声を上げてしまった。さっきまでとは別の意味で心臓がばくばくしてる。


「な、な、何でいるんですか」

「声かけても反応しねーし、なんか考え事してるみたいだったし」

「ああ、うん、ごめんなさい…」


先生には言っといた、と言いながら影山くんが差し出して来たのは私の鞄で、今が放課後だということにやっと気付いた。ずいぶん長い間爆睡していたらしい。ありがとう、と鞄を受け取ってもまだ何だか信じられず、じっと影山くんの顔を見つめてみたら何だよ、と額にデコピンされた。地味に痛いし夢じゃない、はず。


「……あのね、夢じゃないよね?」

「はあ?まだ寝呆けてんのか」

「いやだってあの…あー……」


私の告白にあなたオーケーくれましたよね?と聞く勇気は無かった。今日分の勇気はもう全部使ってしまった気がする。それでもぎこちなく私の頭を撫でる影山くんの手は優しくて、それがさっきまでのやり取りをきちんと証明しているような気がして私はまたちょっとだけ泣いた。泣き虫、なんて言われたけど今度のは嬉し涙だから許してください。


ささやかな愛がいきつくところで



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