結局教科書は影山くんの机の上に置いて逃げ帰ってしまった。自分の部屋で膝を抱えながら、影山くんはかっこいいんだから彼女の一人や二人出来るだろう、と自分を落ち着かせようとして余計落ち込んだ。ていうか彼女二人もいちゃダメだな。歩ちゃんにメールで助けを求めても「千依ちゃんが何もしないからでしょ」と正論をぶつけられてダメージは増えるばかり。


見てるだけでいいって、最初は思ってたはずなのに。またさっきの二人の後ろ姿がフラッシュバックして、勢いに任せて携帯をベッドに放り投げた。何もしないから、歩ちゃんの言葉が余計に私の気持ちを乱した。でも今更どうすればいいのか、何をすればいいのか、焦った頭で考えても結論は出て来ない。せめて、自分が後悔しないくらいには影山くんにきちんと想いを伝えたいなあとぼんやり思った。まずは"ただ見てるだけ"から抜け出さないと。そう決意を新たにして、興奮する頭をなんとか沈めて眠りについた。明日からは一歩、踏み出せるようにしたい。


▽▽▽


決意を新たにしたところで現状が変わるはずもなく、数日間頭を悩ませても結局何も出来ないでいる。何にせよテスト前に考え事とはいただけない。休み時間にまたあの二人と机を囲みながら、テストより大きな問題を抱えてしまったことにため息をついた。当たり前だけど影山くんはいつも通りだし、あの女の子は誰?なんて彼女面したような言葉を出すのは気が引けた。気になって仕方ないけど。気になり過ぎていつもより影山くんの方を見てしまっているのか、バチッと目が合うたび影山くんにガンつけられてメンタルもかなり辛い。というか影山くん顔怖い。


「なんか穂波さん最近元気ないね」

「えっ!?そ、そう見えますか…」

「ずーっと眉間にしわ寄ってる!なんか悩み事??」

「…まあ、そんなとこ。です」

「そっかー、なんか最近影山も機嫌悪いんだよなあ」


動かないシャーペンを見つめながらぼーっとしていたら日向くんに心配されてしまった。全然集中出来てない問題集から目を逸らして、またため息を落とす。日向くん曰く影山くんも機嫌がよろしくないらしい。だから目が合った時あんなに顔怖かったのか…。
ふと日向くんなら影山くんに、か、彼女がいるかどうかとか、あの女の子が誰なのかとか、分かるだろうかと思いつく。尋常じゃないくらい大きな音を立てる鼓動を聞きながら、勇気を振り絞ってあの女の子について聞いてみることにした。


「あ、のさ。影山くんって金髪の女の子の知り合いいる?」

「え!?影山に!!?いたっけなあ……あ!」

「(やっぱり、彼女かな)…もしかして彼女、とか?」

「多分谷地さんじゃないかな!今バレー部にマネージャーとして仮入部してて、勉強見てもらったりしててさー」

「……ま、マネージャーかー…そっかー…」


なんだろう私今すごく恥ずかしい。そういえば勉強教えて、って言われた時にそんな話してたっけなあと思い出しながら、恥ずかしさで火照る顔を隠すように俯いた。日向くんはそんな私を気にもせず谷地さんは頭がいいとか、入部してくれたらいいなとか、そのマネージャーさんの話を続けていた。
彼女じゃ、なかったのか。この数日間悩んでたのはなんだったんだろう!勝手に勘違いしてた自分が恥ずかしい。衝撃の事実にこんがらがる頭を何とか整理しようとしてみるけど、このタイミングでトイレに行っていた影山くんが戻ってきてしまった。驚いてびくーーっと背筋を伸ばした私を影山くんは不思議そうに見ていたけど、視線を逸らして沈黙をやり過ごすことしか出来ない。頼みの綱の日向くんも入れ替わるように自分の教室に戻ってしまい、私はまた影山くんとの無言と戦わなければならなくなった。タイミングが悪すぎる…!どうにか平静を保ちながら黙々とシャーペンを動かしていると、先に沈黙を破ったのは影山くんの方だった。


「……なあ、」

「えっ!は、はい」

「……あー、その……何かあったか?」

「…な、何か、とは」


内心冷や汗をだらだら流しながら視線を泳がせる。日向くんに続いて影山くんまで聞いてくるなんて、私はそんなに酷い顔してるのか。と顔をぺたぺた触っていると、最近笑わねーし、なんて影山くんが言うから考えていたことが全部吹っ飛んでしまった気がした。まず何より私が笑顔かどうかを、影山くんが気にしていたのかという。驚いて目を白黒させている私には気付かずに、影山くんはしかめっ面のままどんどん私の体温を上げるような言葉を投げかけてくる。やめて。


「穂波さんいつも笑ってるから、その……あーーー、そういう顔してると困る、というか、調子狂う」


今そんなこと言われたら、期待しちゃうから、やめて。
感極まってぽろ、と一筋流れた涙は止まらなくて、案の定影山くんはぎょっとしていた。違うの、と言おうとして声も出なくて、慌てる影山くんはどっか痛いのか!?と見当違いなことを言っている。保健室、とはっとしたような声で呟いたと思ったら手を引かれて、そのまま廊下に引っ張りだされた。どうやら保健室に連れていかれるらしい。あんな教室で泣いてたら目立つからよかった、けど、もうすぐ授業が始まるといった時間帯の廊下は誰もいなくて、私はどんどん心拍数が上がっていくのを感じていた。



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