期末テストまであと一週間、自分の勉強に勤しみながらも休み時間は二人の質問に答えたりと忙しい。それでも二人とも基礎あたりは理解できるようになってきたようで、私の努力は無駄じゃなかったんだと安心した。理解力のついてきた二人に教えるのも楽になってきたし、これなら赤点になることは無いんじゃないだろうか。


「えーとじゃあこっちはさっき出した値を代入してー……」

「ん、んー?あーなるほど!!すげー分かった!」


ノート片手にぴょんぴょん跳ねて喜ぶ日向くん。最初に比べれば慣れた手つきで方程式を書いていく姿に感動さえ覚えた。まるで母親みたいな気分である。(そんな失礼なこと本人には言えないけど。そもそもまだこれも基本問題だけど。)これなら期末も大丈夫そうだね、と息をつきながら呟くと今まで本当にありがと!と満面の笑みでお礼を言われて私も満更じゃない。最初は不安だったけどこの話を受けてよかったかも。


「おいそろそろ予鈴鳴るぞ、教室戻れ」

「あ、ほんとだ。穂波さん今日もありがとね!」


黙々と勉強していた影山くんの一言で日向くんは勉強道具を抱えダッシュで教室へと戻っていった。本当嵐のような男の子だ…。日向くんがいると会話も自然と弾むんだけど、やっぱり影山くんと二人きりになってしまうとどこか緊張している自分がいた。いい加減慣れろ。


「……期末ももうすぐだね」

「おー……あー覚えたの全部忘れちまいそう…」

「あはは、テストの日までに忘れちゃわないようにね」


分かってる、と言い残して気だるげに自分の席へと戻っていく影山くんは元気がない。部活のためとはいえ、勉強尽くしで疲れているんだろうか。何か出来たらいいのになあ、とまた余計なことを考えようとする思考を振り払って目の前の授業に集中する。私も二人を見習って今回のテストはいつもよりがんばってみよう。


▽▽▽


あれ?
咄嗟に零れた声は教室の喧騒に吸い込まれていった。帰宅の準備をしていて、ふと数学の教科書が二冊あることに気付く。誰か他の人のを持っていってしまったのかも、と顔を青くして、もしや日向くんか影山くんのではないかと考えを巡らせた。案の定裏表紙を見てみると勢いのある文字で影山、と書かれていて。確か今日も課題を出されていたし、影山くんが帰る前に渡さないと。そう思った時にはもう既に教室を出た彼を追いかけていた。


「(あ、いた。)影山く、ん……」


帰宅前の生徒が溢れる廊下で見つけた影山くんの背中。声をかけようとして、彼の隣に女の子がいることに気付いてどくりと心臓が跳ねた。女の子の柔らかそうな金髪が、その子の動作に合わせてふわふわと揺れている。……私の知らない子だ。和やかに会話をしている二人を見て、じわじわと嫌な気持ちで胸がいっぱいになる。その気持ちが爆発してしまう前に、私は手にした教科書の存在も忘れてその場から逃げた。一秒でも長く、その空間にいたくなかった。


あの女の子は、影山くんの何なんだろう。自分は何でもないクラスメイトでしかない癖に、あの女の子に嫉妬している自分に吐き気がした。ああもう明日から影山くんにどんな顔して会えばいいんだ。



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