インターハイ予選、二日目。
ピーーー、と高い天井に響く笛の音に、強張っていた体の力がするりと抜けるのが分かる。青葉城西と三セット目まで競り合って、烏野が取れたのは二セット目だけ。負けたんだ、そう理解すると同時にかっと目頭が熱くなった。
外から見るだけでは分からないようなことが、チームの中で沢山あったんだと思う。相手のセッターを見つめる影山くんの視線だっていつものそれとは違っていて。一度ベンチに下げられてもその気迫は衰えなかったのに、それでも勝てなかったんだ。客席へと挨拶をする瞬間に、ふと影山くんと合った視線。私はその視線から目を逸らせなかった。逸らしたくなかった。


烏野高校バレー部のインターハイへの道が、いま、終わってしまった。


▽▽▽


本来ならインターハイ予選の、最終日。三回戦で敗退したバレー部は普通にいつも通り登校していた。当たり前だけど影山くんは朝からずっと上の空で、時折苦しそうな、悔しそうな表情を見せていた。ただ試合を見ていただけの部外者でも見ていて苦しくなるくらい、後悔をしている顔だった。廊下で偶然すれ違った日向くんも見た目には元気そうだったけど、ふと遠くを見るような視線は寂しげで。きっと、他の部員のひとたちも同じなんだろう。万年帰宅部の私にはきっとその気持ちは理解し切れないんだろうな、と思うと少しだけさみしい。


四限の体育が終わったあとも影山くんは体育館の天井を睨み付けながらぼーっとしていた。ぞろぞろ皆が教室に戻っていくなかで、私はどうしてもその背中を置いていくことが出来なくて。歩ちゃんに先に戻るようお願いして、今は少し小さく見えさえする大きな背中にそっと歩み寄る。それでもかける言葉は見つからなくて、あの、とかえっと、と言葉に成り切らない声ばかりがもれた。こういうとき口下手なのが悔やまれる。


「……三回戦、見てたよな」

「あ、うん!」


こちらを振り返ることもなく投げかけられた問いに、力いっぱい頷いて答えた。天井を睨む視線はそのままに、影山くんはまた眉間にしわをぐっと寄せて悔しくてたまらない、という表情を作った。そんな彼を見ていられなくて、言いたいことがまとまらないまま口を開く。何言ってんだって思われそうだけど、きっと何も言わないよりずっと良い。


「ちゃんと、見てたよ」

「……」

「…上手く言えないけど。まだルールも覚え切れてない素人だけど、烏野、格好良かったよ…!」


精一杯絞りだしたその言葉に、影山くんはやっとこちらを向いてそうか、とだけ返した。今度はその顔があまりにも穏やかで、なんだか私の方が泣きそうだった。第二体育館行ってくる、と影山くんは体操服のまま飛び出して行ってしまい、さすがにそこまでは私も追いかけなかった。私の言いたかったこと、ちゃんと彼に伝わっただろうか。影山くんも日向くんも、はやくいつも通りになるといいなあ。


そう願いながら教室へ戻って、試合を思い出しながらお弁当をつつく。次に試合を見に行くときはちゃんとルール覚えなきゃな。そんなことを考えていると、何処からかまた二人で言い争う声が聞こえてきて、私はこっそり笑みを溢した。心配はいらなかったかな。



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