気にしないように、というのも難しいもので、以前より影山くんとの距離が縮んだことで余計難しくなっていた。ドキドキする度にどうにか普通に、普通に、と心で唱えながら過ごす日々。変なところで苦労しながらも、やっぱり普通の友達みたいに影山くんと接することが出来るのは嬉しい。しかしそれ故にずっとこのままでいたいと思う気持ちと、もっと一緒にいたいと貪欲になっていく気持ちは常に反発しあった。欲張りよくない。
そんなことを考えながら授業を受けていたら居眠りしていたらしく、先生に放課後の雑用を押しつけられてしまった。いつも通り寝ていた影山くんも一緒に。こんなペナルティまで影山くんと一緒!とはしゃげるほど私は恋する乙女にはなれなかった。単純に面倒くさい。


「くそっ今日に限って…!」

「……影山くんはいつも寝てない?」

「ぐっ、うるせ」


そんな他愛ない会話をしながらノートやら資料やらを先生の指定した準備室へと運ぶ。影山くんの言う今日に限って、というのは部活で試したいことがあったらしく、今日は体育館に一番乗りすると朝から決めていたとのこと。なら部活に行って良いよ、と言いたいところだけど、この荷物は一人じゃ運べなさそうなのでそんな気の利いたことは言えなかった。両手に抱えた資料を持ち直しながら、影山くんは気合いの入った表情で口を開く。その視線の鋭さは初めて彼を見た時と同じで、少しどきっとした。バレーのこと考えてる時の顔だ。


「そろそろインターハイ予選も近いしな。気合い入れ直さねえと」

「ああそっか。頑張ってね!」

「おう、もし暇なら穂波さんも見に来いよ」

「え、いいの!?」


またとないお誘いに私は背筋がピンと伸びるのを感じた。まだ体育館の外からこっそり見ることしか出来てないから、実はバレー部を見てみたい願望はあった。それも試合だなんて、何が何でも見に行きたい!ルールも知らないような初心者の私が見に行っても良いのか迷ったけど、日向も喜ぶだろ、と影山くんが言ってくれたので見に行くことにした。楽しみだなあ。


▽▽▽


ベッドの上できちんと正座をして携帯と向き合うこと早数分。ディスプレイに浮かぶ「影山飛雄」と言う文字を見るだけで心拍数が上がっていく気がした。ぷるぷると震える指で画面を操作して、メール作成画面を開く。ちまちまと文字を打っては消し、打っては消しを繰り返しながら、「明日試合頑張ってね」という旨のメールを送るか送るまいか悩み続けている訳である。こんな簡単なメールくらい送れなくてどうするの、と我ながら呆れる。けど自分で打った文章はどれもありきたりな気がして、いつまでたっても送信ボタンを押せなかった。せっかくどさくさに紛れて念願のメアド交換出来たのに、肝心のメールが送れなきゃ意味がない。


「日向くんには普通に送れたのになあ」


メール作成画面と睨めっこすることを諦めて、ぼーっと日向くんからきた返信を眺めた。びっくりマークがいっぱい並んだメール画面に浮かぶ勝つという文字。日向くんらしい。影山くんならどんな返事をくれるだろう。送る前からそんな先のことを心配しだして、携帯の充電は減っていくばかり。時間ももったいないしもうベタでも何でもいいから送っちゃおう!と日向くんに送ったメールを少しいじってえいやっと全身全霊で送信ボタンを押した。返信来るの怖いから先に電源を切ってそこらへんに放り投げる。返信が来ても来なくてもきっと眠れなくなっちゃうだろうから。


次の日影山くんから送られた返信メールを見てひとり興奮したのは言うまでもない。



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