それから家に帰ってからもずっと夢心地で、もしかしてあれは夢だったんじゃないかと思えてきた。まぶたに焼き付けたはずの影山くんの笑顔も、思い出すごとになんだかあやふやになってしまって。彼はどんな風に笑っていたっけ、と思い出そうとするたび恥ずかしくなって、紛らわすようにクッションをぎゅうぎゅうと抱き締めた。明日からどんな顔して会えば良いんだろう。そう考えると眠れなくて、寝ようと思えば思うほど冴える頭は彼の笑顔を思い出そうとした。


▽▽▽


「おはよう……」

「うわっ千依ちゃんその顔どしたの」

「わーん歩ちゃん聞いて!!」


結局あまり眠れないまま朝はやってきてしまい、完全に寝不足だ。昨日のことを歩ちゃんに話そうとしたタイミングで影山くんが教室へとやってきて、私はぎくりと動きを止めた。じわじわと思い出して顔を赤くする私を不思議そうに見ながらも、普段通り挨拶をしてくれる。辛うじてオハヨウゴザイマスと挨拶し返したけど絶対影山くんなんだこいつって顔してた。けろっとしてるから本当彼にとっては何でもなかったんだろうなあ。


「……なあに何かあったの?」

「待って……今は聞かないで……」


にやにやと笑う歩ちゃんはたいそう楽しそうだった。赤くなる頬をなんとか冷やそうと机に突っ伏す私は朝から死にそうだというのに。平常心平常心。顔を合わせるたびにこんなんじゃすぐばれちゃいそう。


その日は目が合うたびサッと反らしちゃったり、廊下でばったり会った瞬間反対方向に逃げちゃったり、昨日のあれこれのせいで完全に影山くんに対しての免疫がなくなってしまっていた。そうこうしているうちにいい加減苛々が頂点に達したらしい影山くんに首根っこを捕まえられて、ぐいぐいと廊下の隅まで連行された。あああ怖い……。


「おいコラ何で避けんだよ」

「さ、避けてないデスよ」

「嘘つけ。動揺すると敬語になんの穂波さん癖だろ」


なんで私の癖とか知ってるの!?またぶわっと火照りだした顔を見られたくなくて下を向いていたのに、わざわざ影山くんが屈んでくるからバッチリ目が合ってしまった。死にたい。わいわいと騒いでいるクラスの喧騒とは切り離されたような空間で、気まずい沈黙が流れる。それでも影山くんは心底不思議そうに首を傾げていて、あっこれは気付いてないわ、と冷静になれば少しずつ頬の火照りが消えていった。


「……なんか知らねえけど、避けるなよ。調子狂うから」

「わ、分かった、分かりました」


なんとか顔を上げて頷くとビシッとチョップを頭に入れられて痛みに悶えた。暴力反対、と思いつつも影山くんにチョップされて喜んでる自分もいて複雑である。
ちょうどいいタイミングで予鈴が鳴ったからそそくさと教室に戻ったけど、むしろここまできて気付かない影山くんもすごいな……と自分のことを棚に上げて考える。こんなに意識してるのは私だけなんだって、悲しいような、安心したような。複雑な気持ちで受けた授業は全然集中出来なかった。



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