わたしという愛をめいいっぱいあなたに届けたい




放課後、校門でバレー部が終わるのを待っていた私はこっちへ歩いてくる影山くんを見つけてぎょっとした。まずい、あの顔は怒っている。どうしよう、と狼狽えていると、バレー部の先輩がそんな私に気付いたのかバシッと影山くんの背中を叩いていた。うわあ痛そう。そのおかげで影山くんの不機嫌オーラは少し大人しくなったけど、怒ってるのは変わらないみたいで。私は何かしてしまったかなと無い頭を捻らせることしか出来なかった。


帰るぞ、とぶっきらぼうに呟いた影山くん。その後ろに、駆け足で慌ててついていく。三年生の先輩たちが苦笑いで頑張って、と言ってきたけど何のことかさっぱりだ。いつもは歩幅を合わせてくれるのにな、と思いながらも足の長い彼に大股でなんとか追い付いた。怖くて隣には並べないので、少し後ろから恐る恐る名前を呼ぶ。


「か、影山くん」

「……」

「わ、私、何かした?」

「……いや」


恐る恐る聞いてみても答えはNO。ますます分からなくて困っていると、急にピタッと立ち止まって勢い良く振り向いてくるから驚いた。びっくりしたけどその顔は真剣そのもので、私はじっと大人しく影山くんが口を開くのを待った。


「……俺は、」

「う、うん」

「見た目とかメリットとか、そういうのだけで穂波を選んだんじゃないからな」

「えっ?あっ、はい」


怒られるかと思ったら随分好意的な言葉が飛び出してきて私は頬を赤くした。嬉しいけど、結局不機嫌の原因が何なのかは分からない。頑張ってもう少し詳しく聞いてみると、イケメン目当てで部活を見学していた女の子たちに言われたのだそうだ。「どうして穂波さんみたいな子と付き合ってるの?」と。ああ、と思い至った私は視線を足元に落とした。
それは、常に私が考えていた影山くんとの壁で。影山くんはすごく女の子に人気があって、その中には私よりずっと可愛い子も、器量が良い子も、私よりずっと影山くんに相応しい子はいくらでもいる。自覚はしていたけど、それを直接影山くんが言われちゃうのは、嫌だなあ。そうして落ち込みモードに入りかけた私の頭を、影山くんの手のひらが乱暴に撫でる。


「あーだから!俺が穂波を好きなのは、そういうことじゃないって、ちゃんと言ったから」

「……っうん、うん」

「なっ!泣くなよ!!」

「な、泣いてない!うぅっ、」

「嘘つけ」


そう言いながらぎこちなく抱き締めてくれる腕は力強くて、少し息苦しかった。あやすように背中をさする手も少し震えている。そんな彼の不器用な優しさに触れて涙も止まりかけてたのに、まあ泣き虫なとこも嫌いじゃねえけど、なんて言うからまた泣きそうになってしまった。


「あーもう、これ以上泣くなボゲ!」


怒ったような口調でそう言いはするけど、流れる涙を拭う指先は優しすぎるくらいだ。その差がなんだか可笑しくて、彼の手のひらに頬を寄せたまま笑えば影山くんは恥ずかしそうに視線を泳がせた。ほっぺた赤いよ影山くん。そう指摘するとうるせえ!と真っ赤な顔のまま怒鳴り声を上げて、少し乱暴に私の右手を引く。


「おら、帰んぞ」

「うん。……あのね、ありがとね、影山くん」

「……別に」


今度はきちんと私の歩調に合わせたスピードで、ゆっくりと帰り道を歩く。それからまたぽつぽつといつも通りの他愛ない会話が始まって、あっという間にバス停についちゃうんだろうなあ。もっと一緒にいたい、口には出さずに繋ぐ手のひらに力を込めると、やんわりと握り返される。それがなんだか照れ臭くて、影山くんの腕に額をぐりぐり押しつけて誤魔化した。


title へそ



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