変わらないきみのまま




昔、誕生日におもちゃのネックレスをもらったことがあった。おかし売り場にある子供向けのチープなおもちゃ。全種類集めたいのに最後の1個だけ出ないんだ、そんなことを前に話したのを覚えていて、買ってきてくれたらしい。スーパーやコンビニなんかで簡単に買えるとはいえ、女の子向けのお菓子を買うのは大層恥ずかしかったらしく真っ赤な顔で渡してきたのをよく覚えている。中にはお目当てのネックレスが入っていて、それはもう二人で喜んだ。今はもうつけることなんてないのに、未だに捨てられなくてずっとジュエリーケースのなかで眠っている。
今度は自分が彼に贈るプレゼントを探しに店内をうろつきながら、そんな昔のことを思い出していた。今では彼もネックレスが好きでよくつけているようだし、中学の頃くらいから誕生日にネックレスを贈るようになったのだけど。

「さすがにそろそろ…ネタが尽きてきたなあ…」

メンズ向けのネックレスが並んだ棚を眺めてみるけど、どれも今までに贈ったことがあるデザインのような気がしてしまう。あれは去年のに見た目が似てるし、これは一昨年のと色が一緒、あれはその前の…。
困った。彼のことなので、どんなものでも喜んでつけてくれるとは思うけど。自分が気にしてしまうから、どうにもプレゼントが決まらないでいた。

「(まあ別に今年もネックレスじゃないといけない訳じゃないんだけど。いつも同じものだと次に何を渡そうか迷っちゃうな)」

うーん。頭をひねりながら、とりあえず他の売り場も見て回ってみることにする。毎年彼にプレゼントを贈ってはいるけど、男の子の欲しいものってよく分からない。冬馬くんならフィギュアとかプラモだろうけど、誕生日プレゼントとして贈るには少し味気ないだろう。
適当に手に取ったリングを手持ち無沙汰に眺めてみる。指輪はあまりつけてなかった気がするなあ、サイズも知らないし、ピアスはホール開けてなかったと思うし…。仕事や学校で邪魔にならなくて、ある程度普段からつけやすいものといったら。

「……ブレスレットかなあ」

それならまだ無難な気もするし、たまには違うものでもいいかもしれない。そう決めてからも随分迷ってしまったけど、なんとか一つに絞ることができた。シンプルなシルバーのバングルに、小さくグリーンの石がついたデザイン。彼個人への贈り物だけど、やっぱりユニットカラーのものが目を引いてしまって。綺麗にラッピングされた箱にブレスレットを入れて、あとは渡すだけだ。喜んでくれるといいなあ。


▽▽▽


仕事でそっちの事務所の近くに行くからちょっと会おうよ、と誘えばすぐに返事が返ってきてこっちが嬉しくなってしまう。今日は私が誕生日の彼を喜ばせなきゃいけないのに。
家を出る前に、少し逡巡してジュエリーケースからおもちゃのネックレスを引っ張り出す。……思い出したついでに、つけていこうかな。もう随分昔のことで覚えていないだろうし、上からマフラーを巻けば見えないだろう。今でも綺麗にひかるそのネックレスを付けて鏡に映る自分は当然昔より大人になっていて、なんだかちぐはぐで笑えてしまった。

「よう、遅かったな」
「ごめん…!電車が遅れて、て…」

待ち合わせ場所についた頃にはもう冬馬くんはそこにいて、何故だか紙袋をたくさん抱えていた。急に誘ってしまったけれど、やっぱり何か仕事でもあったんだろうか。

「どうしたの、その荷物。やっぱり今日仕事か何かだった?」
「あーいやこれは…ちょっと次の仕事の視察でだな」

何でも今度アニメの主題歌を歌う仕事があり、視察ついでに事務所の皆と秋葉原を見て回っていたと。袋の中身はみんなフィギュアの箱で、一つ一つこの機体がこうでこのロボはこういう仕組みで…といつものように熱心に教えてくれた。アニメのタイトルもよく聞いたことがあるもので、冬馬くんの好きな作品だとすぐ分かった。ほんとに好きなんだなあ、そんな作品の仕事が来たのが嬉しそうで思わず笑みが溢れた。
そんな中、手首に光るアクセサリーを見つけて一瞬固まってしまう。冬馬くんの趣味にしては少し大人っぽいし、確かちょっとお高めのブランドだった気がする。まさか、ここにきてプレゼントで被ってしまったのでは。

「……冬馬くんそんなブレスレット持ってたっけ」

冷や汗をかきそうになりながら恐る恐るそう聞いてみれば、アニメを熱く語っていた彼の顔が聞かれるのを待ってましたとばかりにパッと華やぐ。その眩しさについウッと呻きそうになった。ゼロ距離でその笑顔はあぶない。

「ちょうど今日北斗と翔太が誕プレにくれたんだよ。へへ、ちょっと照れるよな」
「そっかあ……素敵なデザインだね」
「ん、ちょっと俺がつけるには大人っぽ過ぎるかなとも思うんだが、せっかく貰ったからな」

愛おしそうに手首を撫でる姿を見てしまうと、何も言えなくなってしまう。デザインも洗練されていて良いものだと一目で分かる一品で、冬馬くんが言ったように少し大人びてはいるが彼によく似合っていた。

「で?わざわざ連絡してくるんだから、お前もプレゼント持ってきてんだろ?」
「うっ、それは…それはですね……」

こんな素敵なプレゼントを前に自分のものを出すのは気が引けたけど、逃さねえぞとばかりに冬馬くんは悪そうに笑っていたので大人しく渡すことにした。お手柔らかにお願いします、と箱を渡せば苦しゅうない、とネタに乗ってくれつつその場でラッピングを解き始めた。

「……ああ、ブレスレットか」
「毎年ネックレスだったから、今年はちょっと違うものにしようかなって…思ったんだけど…」

箱から出されたブレスレットは、やっぱり二人からのプレゼントより些かチープに光っていて。隣に並べられてしまうと私のほうが気後れしてしまう。そんな私を気にも留めず、冬馬くんは何も言わずに私の贈ったブレスレットも同じように手首につけて、ありがとな、といつも通り笑った。

「何気にしてんのか知らねーけど、もらえるもんはみんな嬉しいんだからな」
「…うん」
「お前のもつけさせてもらうからさ、サンキュ」
「……お誕生日おめでとう、冬馬くん」

一番言いたかった、その言葉。その一言でまた一段と嬉しそうな顔をしてくれるから、いろいろ悩んだけれどやっぱりこのプレゼントにして良かった。まさか方向性を変えたはずのプレゼントが当日に同じ物を渡されてるとは思わなかったけど。

「はあ…まさか被ると思ってなかったから、渡すの緊張した…」
「緊張しなくたって何でも嬉しいって。のどかは昔から変なとこ気にするよな」

うーんそうだっけ。昔のことを思い出しながら、冷や汗をかいて息苦しくなったマフラーを解く。すると目ざとく気付いた冬馬くんが自分の首元をトントンと指さして、そのネックレス、と懐かしそうに口を開いた。

「懐かしいなそれ、まだ持ってたのか」
「えっ!」

まさか覚えてるとは思ってなくて、素っ頓狂な声をあげてしまう。

「これ、冬馬くん覚えてたの?さすがにもう忘れてるかと思ってた」
「それ渡した途端、お前嬉しいってわんわん泣いてただろ。あれは忘れねーよ」
「……そうだっけ」
「そうそう。あー懐かしいな」

……覚えていてくれて嬉しいのと、同時に恥ずかしい思い出まで引っ張り出してしまってやぶへびだったような。俺も今年はお前に何贈るか考えとかねえとな、と当たり前のように言ってくれるから、嬉しさから口元が緩んでしまう。コートからちらりと覗いた冬馬くんの胸元には以前私が贈ったネックレスが飾られていて、手首にはふたつのブレスレット。来年も、そのまた次の年も、君を飾るプレゼントを今日と同じように贈れればいいな。



冬馬くんお誕生日おめでとう!
title 確かに恋だった



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -