僕の優しきライバル




大丈夫。大丈夫。
ふー、とゆっくり息を吐いて、背筋を伸ばす。緊張していないといえば嘘になるけど、今日のはいい緊張感だ。スタッフさんが忙しなく動いている撮影スタジオの隅で1人、集中したくてずっと考え事をしていた。
今までステージで歌わせてもらうことは何度かあったけど、生放送のテレビ番組で歌わせてもらうのはソロになってからこれが初めて。それも、今回はバックバンドの人にも入ってもらって、私自身ギターを弾きながら歌うことになる。私の特技のギターを活かそうと色んな所を走り回って、プロデューサーさんが取ってきてくれた仕事。いつも弱気な自分だけど、今日のステージは絶対に成功させたい。

「(練習はいつも以上にしてきたし、歌い出しさえ掴めれば…リハを思い出して、)」
「背中曲がってんぞ、おら!」
「あいだっ!?」

ばしん、と勢い良く背中を叩かれた。なんて乱暴な、とは思いつつもそんなことしてくるのは彼ぐらいだろう。振り返れば、見慣れた顔の幼馴染が今日も自信満々な顔でそこに立っていた。

「冬馬くん」
「今日、ソロになってから初めての生番組だって?表情固くなってるぞ」

お前なら大丈夫だって、そう言って太陽みたいに笑った冬馬くんは、さっきとは打って変わって優しく背中を押してくれる。彼らもこのあとステージに立つはずなのに、やっぱり場馴れしている。うーんさすが先輩、この落ち着き様はやはり見習いたい。

「うん…」
「なんだよ、緊張してんのか?」
「そりゃするよ!…でも、うん。大丈夫」

無理にでも笑って、拳を作る。一瞬きょとんと目を瞬かせた冬馬くんも、ニッといたずらっ子みたいに笑って同じように拳を作ってくれた。

「お前の歌、ずっと聞いてきたんだから今日でがっかりさせんなよ」
「もちろん。冬馬くんたちもね」
「はっ、上等!だぜ!」

がつんと拳を合わせて、お互いを奮い立たせる。ああ、やっぱりこの人とライバルで良かった!収録が始まる合図を受けて、ぴりりと現場の空気が変わる。不思議ともう緊張はしていなくて、さっきまで震えていたのが嘘みたいだ。大事なギターを抱えて、今日も舞台に立つ。冬馬くんの背中を追いかけながら。


title 喉元にカッター



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -