inorganics




誰かが長谷部を自分にくれ、なんて言ったらどうする?


誰に聞かれたのかも分からない、朧気な質問だった。しかしその言葉に皐月はむっと眉を顰め、不快そうな表情のまま答えた。


「長谷部はものじゃないよ。くれるとかあげるとか、そういうことじゃないんじゃないの」


ねえ、と同意を求めて長谷部を見やるが、長谷部は曖昧に笑うだけで皐月の問いかけにはっきり答えようとはしなかった。長谷部のそんな煮え切らない態度に、皐月の表情はますます険しくなる。皐月はこの本丸の主として、常に刀たちを人として扱おうとした。審神者の力によって人の器を得て、言葉を交わし合い、ものを食べ、彼らはそれぞれ感情を持つ。ならば人と同じだと、皐月は思っていた。彼女の刀たちも同じ考えかといえば、そうではないようだが。


「俺は主のものですよ」

「そういうことを言ってるんじゃないよ。欲しいからくれって、それじゃあ長谷部の気持ちはどうなるの?」

「……ものは嫌だなどとは言いません」

「今はそうやって文句を言う口があるじゃないの!」


興奮したように大声で叫んだものの、長谷部が何も反論してこないと分かると、ばか!と捨て台詞を残して皐月はどこかに行ってしまった。癇癪のように怒り出すのはいつものことだが、やはり子供なのだな、と長谷部はひっそりと考える。

俺たち刀は、ものだ。所有物だ。
それ以上でも以下でもない。戦いに使う道具であって、主である審神者の命ならばそれがどんなものであろうが聞き入れなければならない。主は幼い頃から刀たちと過ごしているせいか、その意識が一等薄いのだ。俺たち刀と家族のように、友人のように接したがる。短刀たちなんかはその砕けた態度に喜んでいるようだが。


「またあの子は君に突っかかっていたのかい」

「……主のあの考え方はどうにかならないだろうか」


さあね、と肩をすくめた蜂須賀は飄々としていて考えが読めない。蜂須賀もどちらかといえば主のようにものを考える性質だろう。彼は弟を愛でるのと同じように、まるで兄のような態度で主と接している。あの子などと呼ばずに、主と呼べと常々思うのだが、彼がそうして呼ぶときは決まって愛しいものを見るような顔をするので、いつしか小言を言うのもやめてしまった。

愛しい。
彼女を愛しいと思うこころが、自分にもないわけではない。


「ああやって強く当たってしまうあの子の癖は直すべきだけれど、君も少しは皐月の思いに答えてやればいいのにね」

「ふん。何のことだか」

「皐月もまた随分な堅物を好きになったものだよ」


愛しい、愛しいとは思う。守ってやらねば、愛してやらねばと。しかしそれを口に出してしまえば、きっと俺はなまくらになってしまう。ものであれ、刀であれと、自分に何度も言い聞かせた。
主の機嫌は、まだ直りそうにない。



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