星へ届くにはまだ遠い




好きな人がいるんだ。そう言って恐る恐る表情を伺うと日向は嬉しそうな顔をしていて、私は心がちくりと傷んだ。


私のことを友達としか思っていない日向は、こうやって私が恋愛相談しに来るのが嬉しいらしい。おかげで自分がその張本人だって自覚はちっともない。それが気に入らなくて、私はいつも本人に直接「好きな人」の愚痴や悩みを吐き出していた。それでも未だに悩みの種が日向本人であることに気付いてくれそうな気配はなくて、悩みは増えていくばかり。日向の鈍感っぷりには多少私も覚悟はしていたけどそろそろ心が折れてしまいそう。


「鈍感過ぎて困るんだけど」

「えーじゃあもう好きって言っちゃったら?直球でドカーン!って!!」

「……はっきり告白してそれも気付かれずスルーされたら私死んじゃう…」

「なまえなら絶対大丈夫なのになあ」


部活が無いから一緒に帰ろうと勇気を出して声をかけた放課後。今日も今日とて日向は真剣に私の話を聞いてくれる。その相手っていうのはあんたなんですけどね、そんな言葉も飲み込んで、代わりに温いため息を吐き出した。大丈夫だよ、それは何度も聞いた言葉だった。なまえはかわいいから、いい子だから。きっと大丈夫、と言われるたびに私はやるせなくなる。
私だって、日向に対して出来る限りのアピールはしてきたつもりだ。だだ漏れな私の日向への好意を知っている人も結構いるんじゃないかと思う。実際にバレー部の二、三年の先輩に(日向の鈍感さに対して)ドンマイ、と言われたことがある。かなしい。でもそれが、本人に届いてなきゃ全然意味が無い。相談するたびに今日こそは告白しよう、と思っても結局その気持ちは胸にしまい込んだままだ。ここまで脈なしだと告白する気も失せるというか、むしろ今の状態が一番ベストなのかもと考えてしまう。
フラれてぎくしゃくするのは嫌なんだもん、と駄々をこねる私の頭を、日向は妹にするみたいに優しく撫でてくれる。日向のそういうとこ、好きだなあ。日向がお兄ちゃんだったら良いのにな、と変な考えが浮かんでしまうくらい。


「ていうかなまえはなんでそんな鈍感なやつ好きになったの??」

「……ノーコメントで」

「なんだそれ!」

「私だってこんなに鈍感だとは思わなかったし…」


はあ〜、ともう一度大きなため息をついて俯く。隣を歩く日向の自転車の車輪の影を眺めながら、そういえばなんで好きになったんだっけと記憶の糸をたどる。けれどそんなの昔のこと過ぎて思い出せなかった。気付いたら好きになってて、友達としか見てもらえてない上に超がつくほどの鈍感だって知っても諦めきれなくて。やっぱり告白しようかな。ぽつりと落とした言葉に日向は驚くほどに食いついた。まじで!!?と喜ぶ日向に対して私は心中複雑だ。


「フラれたら俺が慰めてやるって!」

「……ほんとに?」

「おう!男に二言は無いからな!」


任せろ、と胸を叩いてみせる姿は格好よくて、やっぱり今日も告白はいいやと心で足踏みをする。今はまだ日向の隣で、その笑顔を見ていたい。たとえそれが友達っていう肩書きでしかなくても。ちょっと泣きそうになりながら見つめた日向の笑顔は、夕焼けに溶けていってしまいそうだった。それをまた好きだなあ、と思い直したのは内緒にして、明日もまた日向の隣の友達というポジションに私はいるんだろう。このままでいいんだ、と自分に言い聞かせて、無邪気に笑う日向の笑顔を目に焼き付ける。じくじくと痛んで主張してくる恋心には、気付かないふりをした。


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