拝啓向日葵な君へ




「……それ、どうしたの?」


チャイムが鳴るのを聞いて玄関を開けると、両手いっぱいに向日葵を抱える研磨がそこにいて驚いた。研磨本人もそんな花束を抱えていることが恥ずかしいのか、目を泳がせながら肩をすくめてみせた。向日葵を包んだ包装紙が動きに合わせてカサカサと揺れる。クーラーの効いた部屋の冷気が外へと出ていくかわりに、外のむわっとした熱気が体を撫でていく。相変わらず外は暑いな。


「…母さんが、持って行けって」

「ああ、なるほど。まあ上がって」


研磨はいわゆるお隣さんというやつだ。
だから研磨のお母さんと私のお母さんは仲が良くて、よく物々交換みたいなことをしている。こうやっておばさんが研磨に何かを持ってこさせるのもよくあるんだけど、花なんて持ってくるのは初めてだから変に慌ててしまった。とりあえず外は暑いからと研磨をうちの中へと招き入れて、花瓶はどこにやったっけと思考を巡らせた。
適当な花瓶に水を入れて、もらった向日葵を飾る。夏色の花びらはきらきらと光を反射させて、きれいに光ってみせた。


「で、これどうしたの?」


麦茶の入ったコップを手渡しながらそう聞くと、研磨は思った以上にくつろいだ格好で熱心に向日葵を見つめていた。研磨が花が好きだなんて話聞いたことないけど、珍しく気に入ったのかな。


「……近所の花屋さんで売れなくなったのもらったらしくて。持ってけって」

「そっかあ。あれでしょ、駅の近くのちっちゃい花屋さん?」

「うん、そう」


なるほどね、と独り言を呟いてまた向日葵に視線を戻す。植物なんて詳しくないけど、部屋にこんな風に花があるのも悪くない、となんとなく思った。部屋が明るくなった気がする。というか、なんだか向日葵を見ていると既視感みたいなものを感じて、一人首を傾げた。空っぽになったコップの水滴を弄りながら、既視感の元を頭で探る。ふと未だに向日葵と睨めっこする研磨の髪の色を見て、ああそうかとやっと謎が解けた。


「研磨は、向日葵みたいだね」

「……どこが?」

「ほら、頭のプリンの色とか!」

「ふーん」


私ばっかり楽しくても本人はあんまり興味なさそう。さっきはあんなに向日葵見てたのに。
研磨は向日葵を観察するのにはもう飽きたのか、さも当然のようにうちのソファーに腰かけてスマホで何やらゲームをやり始めた。これはしばらく居座るつもりだな、マイペースな奴め。スマホの画面を睨み付けながら、光に照らされて透ける金髪は扇風機の風でさらさらと流れる。アーモンド形の瞳にそのきらきらが写り込むのを、私はじっと見つめていた。プリンになってるのはちょっと気になるけど、研磨の髪の色はやっぱり綺麗だ。いきなり金髪に染めたときは不良になったのかと焦ったけど、今思えばよく似合っている。隣に並ぶ向日葵と見比べながら、やっぱり似てるなあと誰に言うでもなく呟いた。


研磨が言うには太陽みたいな向日葵は、ショウヨウくんの方が似合ってるんだって。そのショウヨウくんとやらはクロや研磨との会話に出てくる、バレー部関連の子だ、確か。名前は知ってるけど、まだ私はその子の顔を見たことない。最近研磨が珍しく部活にやる気を出しているのも、向日葵を熱心に見ていたのも、そのショウヨウくんとやらの影響なのかな。幼なじみの小さな変化に喜びつつ、向日葵を見ながら顔も見たことない男の子に思いを馳せた。なまえならきっとすぐ仲良くなるよ、と言っていたので早く会ってみたいなあ。



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