夢のつづきで逢いましょう




深い眠りが人を包むころのつづき


今日も私は夢を見る。空中でぷかぷか浮かんでいるような、水中にゆらゆら沈んでいるような、不思議な感覚の夢。ふ、と目を開けるとそこには当たり前のようにジュリウスがいて、私は驚いて目を瞬かせるのだ。


この夢を見るのも何回目だろう。虚しいとは思いつつも、夢の中でなら彼に会えるんだと楽しみにしている部分もあって複雑だ。いつも通りフライアの庭園でぼーっと空を眺めるその姿に、言い表わせないような気持ちがぐるぐると胸で息づく。そろりと隣に座るとにこりと微笑まれて、私は息が上手く出来なくなってしまう。


「……隊、長」

「どうした?なまえ」

「…なんでもないです」


変な副隊長だな、とまた笑うその顔は記憶の中の彼そのもので、どうしてこう毎回夢に出てくるのか不思議で仕方ない。初めこそ私が彼のことを考え過ぎているせいだとも思ったが、今では十分割り切ったつもりなのに。毎回そのことを聞けないまま他愛ない話を二人でして、またふわっと現実世界に戻って目を覚ます。そんな変な生活を繰り返した。夢と現実との区別がつかなくなるなんてことはないけど、彼が夢に出てくるのはいつまでも私が過去を引きずっているせいなのでは、と思うとあまり良い夢とは思えなかった。割り切ったつもりなのに、こんなに綺麗に笑う彼を見てしまえば胸で燻っている後悔にだって容易に火が点く。目を覚ました瞬間に残る彼の感覚が、ずるずると思考を鈍らせた。


「……苦しそうな顔をしているな」

「えっ、そう、ですか……」

「ああ、またよく眠れていないのか?」

「いえ。そんなことは」


いつもの夢と会話のパターンが違ってびっくりした。いつもの夢なら彼はこんな表情はしないはずなのに。夢の内容はともかく、今は普通に眠れている、と話せばジュリウスは心底嬉しそうにそうか、と頷いて笑ってみせた。
……ああ、そうだ。私はこの笑顔を見たことがある。ジュリウスが隣にいると良く眠れる、と話したときに言ってくれた言葉と同じだ。また過去のことを思い出して意識を飛ばしていると、ジュリウスはおもむろに立ち上がって安心したように視線を投げかけてきた。その今にも消えそうな儚さに、ぴりりと緊張が走る。


「じゃあ、もう大丈夫だな」

「……?ジュリウス隊長、待って、」

「ほら、起きなさい。隊長はもうお前なんだから」

「っ、待って……!!」


最後の言葉が口から出たのはもう現実世界の方だった。自分の寝言の大きさに苦笑しつつも、そういえば彼が夢に出るようになってから悪夢を見ていないなと気付いて瞳を潤ませた。私なんかの睡眠のためにわざわざ夢に出てくるなんて、本当ジュリウスはお人好しだなあ。でも悪夢を見なくなった代わりに、目を覚ましても隣にあなたがいないのは、すごくさみしいよ。未だに隣に一人分空間を開けて眠る癖は直らないし、起こしてくれる人がいないから遅刻しちゃうし。ふー、と一度だけ息をついて、今日もまた仕事をするべく体を起こした。


その日からジュリウスが夢に出てくることは無くなってしまって、嬉しいような悲しいような、曖昧な気持ちを抱えたまま今日も眠りにつく。また夢にあなたが出てきたらいいのに。



title 亡霊



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