愛したもん勝ち




「やっぱり、別れようよ」


何度目か分からないその言葉に、孝支はまた曖昧に笑った。


一年生の時から、孝支のことが好きだった。二年の時に告白してオッケーをもらって、三年の今までずっと続いてる。まだ最初と同じか、それよりもっと孝支のことが好き。だけど、私は孝支に甘えてばかりで、このままじゃダメだと漠然と感じていた。私だって孝支を支えたいのに、彼は何でも一人で出来ちゃってどこか無力さみたいなものを感じる。
このままじゃ私がダメになっちゃうから、別れよう。そう切り出した私の言葉にまだ孝支はうんと言ってくれない。いつも曖昧にはぐらかされて、ぐずぐずに甘やかされて、またいつもと同じ状態に戻ってしまうんだ。


部活終わりの帰り道でまた別れ話を進めようとすると、孝支はいつもの調子でやだやだ、って顔をした。その顔に私が弱いの知っててやってるの?


「もー、またその話?そんな顔して言われてもうんとは言えませーん」

「……どんな顔?」

「別れたくないって、顔に出てるもん」


そりゃ、別れたくないけど。そうぽつりと落とした呟きに繋いだ手の力がぎゅっと強くなる。じゃあ別れなくていいじゃん、なんておどけて笑う孝支はすごくかっこよくて、孝支はずるい、と心の中だけで思った。
もう三年なんだから将来のことだってきちんと考えないといけないし、なんだか部活も忙しそうで、こんなダメな彼女に時間を割いてほしくないのに。忙しくてもきちんと私のことまで気遣ってくれるその優しさが、私は息苦しい。


「……そんなに言うなら別れてもいいけどさ、」

「!ほんと!?」

「うわーそんな嬉しそうな顔されると傷つくなー」

「だって……で、なに?」

「条件がひとつ」


条件?と首を傾げた私に、孝支は少し寂しそうな顔をする。そんな顔をさせてるのが私なんだって、じくじくと心が痛んだけど、彼にそれを悟られないように次の言葉を急かした。


「なまえが俺のことちゃんと嫌いになったら、別れてもいいよ」

「……嫌いになったら?」

「そう。さすがにそうなったら俺だってすっぱり諦める」


嫌いに、なったら。口の中でもう一度反芻して、そんなの絶対無理だと独りごちた。だって好きだから、好きなのにつらいから別れようって言ってるのに。ぐっと眉間にしわを寄せて悩む私を、孝支は笑いながら見ていた。いかにも無理でしょ?って言いたげな自信満々な顔。好きだけど、そりゃ好きだけど!そんな顔されると腹立つ!
もう別れ話どころじゃなくなってもういい!と先を歩く私の背中に、いやー愛されてるなーなんて嬉しそうな声が届いた。またそうやって孝支は私を甘やかして、この関係を終わらせてくれないんだ。それを少し嬉しく思っている私も、救いようがない。ゆっくり振り向けば孝支はちゃんと私に笑いかけてくれて、私はこの人から逃げられないんだと本能的に悟った。悔しくて好きだよ、と言ったら俺も、と答えながら抱きしめられて、敵わないなあと首筋に額を擦り寄せた。いつになったら君の体温を忘れられるんだろう。



title レイラの初恋



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