深い眠りが人を包むころ




夜中にはっと目が覚めてしまうことがある。そういう日は決まって夢見が悪くて、見るのは自分が死ぬ夢ばかり。おまけにその夢は回数を重ねる毎にリアリティに溢れ、私生活に影響を及ぼす程だった。神機を握る腕も、迫り来るアラガミも、何もかもが現実のようで。任務の最中にだってそれはフラッシュバックする。毎回最後の瞬間に飛び起きては、ああ良かった夢だったと安堵するのと同時に、死ぬことへの恐怖に身を震わせた。



今日の夢もそうだ。どくどくと早鐘を打つ自分の鼓動を聞きながら、額の汗を拭う。まぶたの裏に残る真っ赤な光景が離れない、あんなものは夢なのに。膝を抱えてやり過ごそうとしてみるけれど、ぎゅっと閉じた瞳から涙が溢れるだけだった。汗もかいてしまったし、シャワーでも浴びて寝直そうか。そう思いベッドを下りようとして、するりと左手に触れた何かに驚いて肩が跳ねる。勢いよく振り向くと、左手に触れていたのは隣で寝ていたはずのジュリウスで。眠たげな瞳は怯える私をしっかり捉えていた。



「……眠れないのか」



「あ……ちょっと、変な夢見ちゃって」



まだ寝ぼけているらしい彼の顔を見て心底ほっとした。こうして夢を見たくらいで変にびくびくしてしまう自分が嫌だ。見る夢が怖くて眠れないなんて子供みたいな話、人に打ち明けることが出来なくて隣で眠る彼にだって話せていない。夢の内容だって、軽々しく口に出せるようなものじゃないし。泣いていたことを悟られまいとへらりと笑って見せると、ジュリウスは僅かに目を細める。鋭い彼のことだから薄々感付いてはいるのだろうけれど、彼はけして何も聞かなかった。いまだって何も言わずに、震える私を抱き締めてくれる。優しいひとだ。



「明日も早いんだろう、ゆっくり休んだ方がいい」



「…うん。ありがとう、ジュリウス」



「……おやすみ、なまえ」











しばらくしてなまえの穏やかな寝息が静かに聞こえてくる。それに合わせて浅く上下する背中を優しく撫でて、彼女を起こさないように寝顔を覗き込んだ。すやすやと眠るなまえの寝顔は柔らかいものではあるが、目の下にくっきりと目立つ隈がなんとも痛ましい。
ここのところよく眠れていないのには気付いていた。けれど、俺が目を覚ます度に彼女は何でもないからと笑って隠そうとする。一言弱音でも何でも言ってくれれば、俺だって何かしてやれるかもしれないのに。しかし彼女のことだから、何かあったのかと聞いたところでどうにかはぐらかそうとするんだろうな。なかなか自分を頼ってくれないくれないもどかしさにため息が出る。



「まったく、手のかかる奴だな」



なまえには聞こえていないであろう独り言が静かな部屋に響く。ぴくりとまぶたを震わせたなまえはわずかに身動ぎをしてみせたが、まだ目を覚ます様子はない。彼女は今夜、一体どんな夢を見るのだろう。せめて俺の隣で眠るときは、幸せな夢を見れるように。額に軽く触れるキスを落として、自分も睡魔に身を任せて目を閉じた。明日目を覚ました彼女が笑顔であるよう、密かに願いながら。



titie 亡霊



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