とじた瞼に触れて




※死ネタ、ネタバレ注意






ロミオの亡骸は想像したものよりもずっと綺麗だった。



月並みな表現ではあるが、まるで眠っているような死に顔というのはこういうものなのかと、妙に納得してしまった。そんな変な思考をしてしまうほど、仲間が一人いなくなってしまった事実を受け止め切れないでいる。やっと、やっと、心の底から彼と分かり合えたと思ったのに。神様は意地悪だ。



「副隊長は、泣かないんだね。強いなあ」



「……なんだか……泣こうと思っても、涙が出ないの」



ナナにかけられた言葉に、自分が涙を流していないことに気付く。心配から出た言葉だったのかもしれないけれど、最後の最後まで彼のために泣けない私を責めているようだとも思った。みんなが彼の死を偲ぶようにして涙を流しているというのに。なんて私は薄情なんだろう。キシキシと音を立てて心が痛んでも、この瞳が潤むことは無かった。
悲しみの淵にいようがやらなくてはいけないことはいくらでもある。いつまでも彼の身体をここに置いておく訳にはいかないし、お葬式だってやらなくちゃ。これからのことを相談し合う輪の中にいても、何処か現実味が無くて話が頭に入らない。様子を見ていた隊長が部屋に戻るかと提案してくれたけれど、今は彼から離れたくない。



「……俺たちはロビーに戻ろう」



「でも……」



「今は一人にしてやろう、気が向いたらなまえもロビーに来てくれ」



未だ食い下がるシエルちゃんの背中を押して、隊長はみんなを率いて部屋を出ていった。ゆっくり頷く私を見つめる視線はまだ心配そうだったけれど、シエルちゃんも渋々といった様子でお辞儀をしてから部屋を後にした。誰も居なくなった部屋でひとり、ロミオの顔をじっくり眺めて目に焼き付ける。私が喋っても誰も答えてくれないんじゃあ部屋が静かだよ、ロミオ。うるさいくらいだったフライアが、君ひとり居なくなっただけでこんなに静かになるなんて。



「おやすみ、ロミオ」



もう二度と開かれることのないまぶたをゆっくり撫でて、その頬にキスをした。その肌の冷たさを、私は一生忘れないだろう。一筋だけ流れた涙の温かさも、もう君には伝わらない。



title 亡霊



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