※ネタバレ、捏造注意



追憶ホログラムシステム。過去の人物をデータ化し、ホログラムとして再現する技術である。と、知識だけは頭に詰め込んであった。その仕組みを理解しているからこそ、それがただのホログラムでしかないことはよく知っていたし、誰が来ようときっと大丈夫だと思っていた。ジュリウス隊長そっくりのホログラムを、この目で見るまでは。



「こんなの、私の知ってるジュリウス隊長じゃない、」



無意識のうちにそう口走った私はとにかく"彼"から逃げた。本人の前で言ってしまったことはじわじわと後悔が襲ってきたけれど、"あの人"に謝るのは何か違う気がした。そもそも本人じゃない、そんなはずはない。分かってるはずなのに、もつれる足で走りながらも涙が止まらなかった。



最近は自分なりに吹っ切れたつもりだった。もうことあるごとに思い出して涙を堪えることも少なくなったし、ミッションだって頼りないかもしれないけれど隊長としてこなしてきた。それなのに、あんなホログラムにここまで乱されるなんて。乗り越えられたと思っていたのは私だけで、少し揺さ振られただけでこの様だ。抑えていた感情は今まで以上に膨れ上がり、柔く緩やかに私の首を絞めていく。久しぶりに流した涙は熱くて、頭が焼き切れそうだ。



「(あの人のことを考えるだけで、こんなにも苦しい)」



足が進むままめちゃくちゃに走ってたどり着いた先は、フライアの庭園。気が抜けてしまったのか力が入らない足を引きずって、ロミオ先輩の墓石の前にへたりこんだ。花の香りは不思議と意識を冷静なものへと戻してくれたけど、気持ちは沈んだままだった。ジュリウス隊長のホログラムがいたのだから、ロミオ先輩のホログラムもいずれ目にすることとなるのだろうか。ぐるぐると胸中を渦巻く感情たちのせいで嫌な考えしか浮かばない。



「もう、いやだなあ……」



「副隊長、」



「!」



さく、と草を踏みしめる音と懐かしい声色に振り向くと、逃げた私を追ってきたのかジュリウス隊長―――の、ホログラムがそこに立っていて。心配そうな視線はどうにも居心地が悪く、涙を乱暴に拭ってなんとか立ち上がってみせた。少し足が震えているのが情けない。こうして改めて向き合ってみて、彼はどこから見てもジュリウスにそっくりだ、嫌気が差すほどに。心配そうな視線はそのままに、目の前の"彼"は気遣うような言葉をかけてくる。



「その……大丈夫か?」



「……は、い。すみません、すぐ任務に戻ります」



彼と同じ声、同じ顔で、私に話し掛けないで。優しくしないで。
また走り出したくなる気持ちを抑えながら、なんとか平静を保つ。任務に戻るとは言ったものの、足は震えて動かないし、泣き腫らした目は見られたくないし。俯いたまま一向に戻ろうとしない私に、彼はゆっくりと歩み寄ってきた。視線を地面に落としたままでは彼の動きのほとんどを見ることは出来ないが、恐る恐るといった様子で私の頭を撫でるその手つきが隊長と全く同じで、また涙が零れそうになる。私に触れるその手も、名前を呼ぶ声も、まるで彼そっくりなのに。もうあの人は、帰ってこないんだ。



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