だってずっとここにいたのに




「俺彼女できたんだ」


そのたった一言で、私の六年目に突入しようとしていた片想いはあっけなく終わりを告げたのだった。


一瞬何を言われたのか分からなかった。だけど照れくさそうに、嬉しそうに自分の彼女のことを語る及川の姿は確かに現実であって、これが夢なんかじゃないことは分かる。おめでとう。その言葉以外に、どんな言葉を彼にかければ良かったのか。混乱する頭で考えても思考は絡まるばかりで、そのあと自分が及川に何と言ったのかよく覚えていない。上擦った自分の声の震えと、背中を流れる嫌な汗の感触だけが、脳裏にこびり付いて離れなかった。


そりゃまあ元よりこの気持ちを伝えるつもりはなかったし、自分があいつの特別な人間になれるなんてことは思ってなかった。それでも、中学の頃から連れ添ってきたこの気持ちが素直に納得するかというとそうじゃなくて。
私がひっそりと片想いしていた間に、及川もまた同じようにその子に片想いをしていたそうだ。そんなの全然知らなかった。あの腐れ縁の幼馴染の岩泉も知らなかったと言うのだから驚きだ。念願叶った彼の満面の笑顔が、今はただただ眩しい。悔しいけど、そんな顔をさせられるのは私じゃないんだよなあ。お構いなしにのろけ話をかましてくる及川に良かったね、と何度も声に出して言ってみたけどちっとも良くない。健気にあいつを祝福してやろうと見栄を張ってみても、実際私は自分のこの気持ちの落としどころを見つけるのでいっぱいいっぱいだった。私も私を癒してくれるような彼氏が欲しい。


「私も彼氏がほしい……」

「だからあんな奴やめとけって散々言ったべ?」

「岩ちゃん私を癒して〜〜」

「ちゃん付けはやめろっつってんだろ!」


思ったことをついポロッと口に出したら、黙って私の愚痴を聞いていた岩泉が憐れむような目でこっちを見ていた。そういえば岩泉は中学の頃からそうやって律儀に忠告していた気がする。そんなの私が一番分かってるっていうのに。あいつはやめとけと言われてはいそうですね、って諦められたらそりゃ苦労しない。
癒しを求めて名前を呼んでも普通に拒否されて涙が出そうだ。及川と同じ呼び方がそんなに嫌なのか岩ちゃんよ。癒してほしいのは本音だけど、優しくされたら涙腺が耐えられないからこのくらいの扱いが一番ちょうどいいのかもしれない。何だかんだで岩泉は私の気持ちを知った上で、不器用なりに協力してくれたりもした。及川に彼女が出来たと知っても比較的冷静でいられるのだって、こうして岩泉が愚痴を聞いてくれるおかげかもしれない。私岩泉に惚れとけば良かったな、とぼやけばそれはねーわ、と鼻で笑われた。むかつく。


「さっさと及川よりイケメンな彼氏作って及川にドヤ顔で紹介したい」

「それなんか意味あんのか?」

「……自己満足かな」

「だろうなァ」


六年間も抱え込んだ大荷物を放り出して楽になりたい。正直それが本音だ。ずるずると片想いを続けるのも疲れるし、スパッと諦めて次に行ってしまえばこの気持ちも軽くなるのではないか。単純な考えだけど、今はとにかくあいつのことを考えたくなかった。


title moss



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