私の声で気付いたのか、風に吹かれながらこちらに振り向けば、さらさらの黒髪が綺麗に靡いていて。
その、鋭いグレーかかった瞳が私を見詰める。
──本当に、雲雀、さん?
急な展開に頭と感情が上手くリンクしない。
「……葉月」
けれど、そう雲雀さんの少し低い声で呼ばれれば。
普段はあまり関わりたくないはずなのに、足は素直に彼の元へ動き出す。
しかも、走って。
何日かぶりに並盛に戻れば。
赤ん坊の言う通り、あれから数日しか経っていなかったらしい。
並盛は相変わらず秩序を守っていて安心した。
僕の、並盛。
試練だか何だか知らないが、これからまたこちらには数日間しかいられないらしい。
面倒だ。
──君が、未来にはいないのだから。
突如、キィと錆び付いたドアの音がする。
こんな時に、何処の馬鹿な草食動物だ。
だけど僕だと気付けば直ぐに消えるだろう。
今は咬み殺す気分ではない。
そう折角甘い判断をしたのに、草食動物が去る足音がしない。
変わりに響いたのは、今僕が考えていた──
「ひ、雲雀さんっ!?」
葉月の声だった。