まるで、ドラマか映画みたいだ。
もしくは本の中の王子様。
此処は森の中ではないし、彼が引いているのは白馬でもないけれど。
ぼうっと考えていたせいか。
雲雀さんの視線が月から、こちらに動いたのに気付くのが遅れた。
びっくりしてピクリと肩を震わせると。
彼はクスッと笑って私の頬に手を伸ばして来た。
「え?」
「どうかした?顔赤いけど」
そうして雲雀さんの少し冷たい手が頬に触れれば、更に顔が熱くなる。
──恥ずかしいっ!
慌てる私を、何が楽しいのか雲雀さんはずっと見ていた。
たまに冗談のつもりなのだろう、手を動かして。
「ところで」
ふいにそう言って、雲雀さんが頬から手を離してくれれば。
先程よりは幾分も軟らかくなった表情で。
「なんていう塾だい?」
なんて言われて、思わず話題に付いていけずポカンとしてしまう。
「中学生をこんな時間に一人で帰宅させる、常識外れの塾の名前だよ」
そこにいたのはもう、さっきまでの不思議な雲雀さんではなくて。
明らかに獲物を見付けた様子の、楽しそうな何時もの風紀委員長さんだった。
──明日からまた塾を探さなきゃ。
思わずそう考えたのは秘密。満月を背負う夜(君とふたりきり)