──随分と遅くなっちゃった。
塾帰り。
苦手な数学の解き方を教えてもらっている内に、いつの間にか時間が過ぎてしまっていたらしい。
気付けば二十二時を回っていて、流石に先生も安全を考慮したのか、そこで質問は打ち切りとなってしまった。
まあ、根詰めて勉強をしても頭に入るわけではないしと、夜風に当たりながらぼんやり考えていると、ふいに何処からか声がかかった。
「君、こんな時間に何してるの」
それは普段学校で聞く声で、まさかと思ったけれどやっぱり。
「雲雀さん」
その人だった。
学ランを肩にかけて羽織り、珍しく愛車であるバイクを引いて。
いつも通りの切れ長の瞳と、ちょっと不機嫌な表情。
「夜の見回りですか?」
「質問してるのは僕だよ。葉月、こんな時間に一人で出歩いて、風紀を乱したいのかい?」
──こんな時間に出歩いている貴方も風紀を乱しているのでは?
なんて考えが一瞬頭を過ぎったけれど。
“時間なんていうもので僕を縛ることは出来ない”とか“並盛では僕が秩序だ”とか、よく分からない理屈を言われそうで、口から出ることはなかった。