一体誰がこの眠らない獅子の巣に手を出したのか。
少なくとも昨日までは、そんな馬鹿はいなかった。
獅子に手を出すならばまだしも、巣に直接攻撃を仕掛けるとは。
けれど何故か縄張りの中心を汚された当の本人は、楽しそうに窓辺に座っている。
「此処に置いておきますね」
葉月はその機嫌を逆なでしないよう、ソファーとセットの机にプリントを置こうと手を伸ばした。
「頂戴」
「え?」
声に驚いて顔を上げると、夕日をバックに機嫌良くこちらを見ている雲雀が。
手を伸ばしていた。
「僕へのプリントでしょ?頂戴」
ここまで持って来い、ということなのか。
逆らうわけにもいかず、大人しく雲雀の元へ歩み寄る葉月は、ふと途中でその歩みを止めた。
複雑な表情をして。
「あの……」
お互い手を伸ばせば受け取れる距離。
絶妙なそこ。
窓の下の女子生徒からは見えないだろう、位置。
「届かないんだけど」
──嘘だ。
葉月は瞬時に理解した。
雲雀の顔も声も、全てがまるで玩具で遊ぶように楽しそうにしている。